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「出前の途中で来ているんで、時間がないんだよ。だいたいのことは聞いているんだけどさ」
探偵の本業はラーメン屋だった。
いや、ラーメン屋の本業が探偵なのか。
さすがに自称探偵のラーメン屋に依頼する気にならない。
しかし、私が断る前に探偵は私の手にあるスマホを見ていた。
画面には隠し撮りしていた彼女の写真が表示されている。
「この方が調査対象者ね。わっかりました。今日はスープの仕込みがあるんで、明日から調査しますわ。依頼料の半額は前金でお願いします」
「いや、あの――」
探偵はラーメンの写真が印刷された箱を私の顔に突きつけた。
「オープン記念キャンペーンでうちのラーメンギフトをプレゼント。醤油・味噌・塩の十二食セットです。どうぞ」
「……ありがとうございます」
前金を払い、こうして私はラーメン屋を探偵として雇うことになった。
一週間後、探偵から調査報告をしたいので店に来てもらいたいと連絡があった。なんでもバイトが一人風邪をひいて休んだので、店を離れることができないらしい。
駅裏のうらびれた路地に探偵のラーメン屋竹楼軒はあった。薄暗い雑居ビルの一階の奥、赤い暖簾をくぐって店に入った。
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