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探偵は厨房で中華鍋を振っていた。
探偵は私を見ると「まいど」と言った。うまそうな脂と醤油の香りがする。どうやらチャーハンを作っている最中らしい。
「すみませんけど、そこのエプロン着てもらえます」探偵はカウンターに置いてあるエプロンを顎でさした。
「チャーハンもうすぐできるんで、出前頼みます。すみませんね」
「いや、それは――」
「出前ミスでチャーハン入れ忘れちゃってさ。お願いします」
私は住所が書かれたメモとチャーハンが入った岡持ちを持たされると有無を言わさず出前に出された。
出前先は店から歩いて七分ほどのマンションだった。
エレベーターで七階に上り、七○四号室の前に立つ。表札にはかわいらしい文字で三人の名前が書いてある。おそらく若い夫婦と子どもの三人暮らしなのだろう。
チャイムを押す。間をおいてドアが開いた。
「おまたせしました。竹楼軒です」
地下鉄の彼女がいた。
片手にかわいらしい赤ちゃんを抱っこしている。
立ち尽くしている私をあの大きな眼で彼女が見ていた。
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