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会社に戻っても仕事なんて手につかない。
パソコンのキーボードの上に置いた指は少しも動こうとしない。
動かそうとも思わない。
真っ暗なモニターをぼんやりと眺めていると、上司の片桐未奈美が寄ってきた。
未奈美は僕と同期入社だ。
一流大学卒で、あっという間に出世した。
美人だし、仕事もできるから、幹部のウケもいい。
僕なんて逆立ちしたって敵わない。
未奈美は事務室にいるときにはもちろん上司として振舞う。
だけど、他に誰もいないときには同期として親しく接してくれる。
そして、僕は同期の中でも特に未奈美と仲がいい。
「京極さん、何をしてるの?」
未奈美は僕のすぐそばに立って言う。
「すみません。ちょっと、いろいろあって……」
「いろいろって何なのよ? そんなんじゃ何の説明にもなってないわ」
未奈美が溜め息を吐く。
他の同僚も手を止めて僕たちの方を見る。
このままあんなことを話せるはずもない。
「未奈美、悪いけど、ちょっといいかな?」
僕は言った。
「上司に向かってその言い方は何よ?」
未奈美が僕の言い方を窘める。
でも怒っているわけじゃないのは表情でわかる。
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