第1章 現在・僕

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 会社に戻っても仕事なんて手につかない。  パソコンのキーボードの上に置いた指は少しも動こうとしない。  動かそうとも思わない。  真っ暗なモニターをぼんやりと眺めていると、上司の片桐未奈美が寄ってきた。  未奈美は僕と同期入社だ。  一流大学卒で、あっという間に出世した。  美人だし、仕事もできるから、幹部のウケもいい。  僕なんて逆立ちしたって敵わない。  未奈美は事務室にいるときにはもちろん上司として振舞う。  だけど、他に誰もいないときには同期として親しく接してくれる。  そして、僕は同期の中でも特に未奈美と仲がいい。 「京極さん、何をしてるの?」  未奈美は僕のすぐそばに立って言う。 「すみません。ちょっと、いろいろあって……」 「いろいろって何なのよ? そんなんじゃ何の説明にもなってないわ」  未奈美が溜め息を吐く。  他の同僚も手を止めて僕たちの方を見る。  このままあんなことを話せるはずもない。 「未奈美、悪いけど、ちょっといいかな?」  僕は言った。 「上司に向かってその言い方は何よ?」  未奈美が僕の言い方を窘める。  でも怒っているわけじゃないのは表情でわかる。
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