第1章 現在・僕

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 女は男と腕を組み、べったりとくっついている。  それでも、見れば見るほど、それは妻の玲子のように見える。  玲子は歩き方に特徴がある。  少し右足を引きずるようにして歩くのだ。  高校生のときに遭った交通事故の後遺症だ。  僕は女の歩き方をよく見た。  右足を……引きずっている。  間違いない!!  あれは玲子だ!!  なんで玲子がこんなところに!?  しかも、あの男は誰だ!?  目の前の世界が急に回りだした。  思考回路なんてまともに働かない。  すぐに走って行って呼び止め、問い質すべきなのかもしれない。  だけど、体がまともに動かない。  何が起きているのか理解もできない。  自分が起きているのか眠っているのかもわからない。  フラフラとした足取りで歩いているうちに、カップルは目の前から消えてしまった。  追いかけようと思っても、もうどこに行ったのかわからなかった。  どうしたらいいのか、僕にはわからない。  とりあえず、会社に戻ることにした。  玲子に電話をかけてみる勇気もない。  かけたところで、どうせ誤魔化される。
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