ないがとう

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 大学の講義室に着くと、まだ数人しかいなかった。俺は最後尾の席まで最短距離を進み、カバンを机の上にのせて腰を下ろす。開始時刻まで10分はある。それまで突っ伏して眠ることにした。  自分の名前を呼ぶ声で目が覚めた。眠る前はいなかった隣の席に友達が座っている。周囲は眠る前とあまり変わっていないと思ったが、おかしなことに人数が減っているように感じる。  「もう講義終わったぞ?お前の分の出席表も貰っといたから、さっさと提出して飯行こう。」  そう言って友達が出席表と書かれた紙をくれる。俺は黙ってその紙を受け取り、カバンの中から筆箱を出してボールペンで署名した。そうか、俺は講義中ずっと眠っていたのか。  「起こそうか迷ったけど、どうせ出席表を出しにきただけだろ?昨日も遅くまで飲んでたんだろうから無理には起こさなかったけど。」  「ああ」と我ながら気の抜けた返事をして、出席表を提出しに立ち上がった。試験のために講義を聞いておこうと思ってたから、起こしてくれても良かったんだけどな。席に戻ると友達が既にリュックを背負って待っていた。俺もカバンを持ち、友達と一緒に食堂へ向かった。  食堂は多くの学生が利用する。昼時は注文所に行列ができ、テーブルはすぐに埋まる。ゆっくりと食事をしたければ、時間をずらすか学外の飲食店に行くしかない。俺と友達は今日のような昼前の講義を履修していない日には、早めの昼食をとることにしている。友達と話す内容は講義のことから始まり、サークル活動、趣味ときて、何故だか今朝のニュース番組の話になった。  「俺もちょうど同じ番組を見たんだよ。あの芸能人が好きなんだよね。空気読めない感じというかバカっぽい所が可愛いんだよ。今日のあの根拠はないけど、自信満々に持論を語るところとか可愛かったな~。」  ふーん、俺には理解できない感覚だなぁ。そんな俺の気持ちを汲んだのか、友達は好きな芸能人の話から『ありがとう不要論』に話をシフトした。  「それにしても、もう五年か。五年前はまだ高校生だろ?急に「もう『ありがとう』は言ってはいけません。」なんて言われて、意味分かんなかったけど、気をつけて生活してると慣れてくるもんだな。」  俺は友達に『ありがとう不要論』に賛成かどうか興味本位で聞いてみた。  「俺はあろうがなかろうが、どっちでもいいけど。まあ、ない方が気楽でいいな。俺は『ありがとう』って言われる側より言う側の方が多かったから、逐一『ありがとう』って言わなくていいし。実際ありがたくないことにも『ありがとう』って言わないといけない時とか面倒くさかったしな。」  そう言って友達は笑っていた。俺は何も言わなかったが、講義でのことを思い出して最後の発言には同意した。  他の生徒が食堂に集まってくる前に、食事を終え食器を片付けて外へ出た。午後にもまだ履修している講義は残っていたが、俺は友達に「今日はもう帰って寝る」と言って別れた。
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