本当のありがとうは、ありがとうじゃ足らない

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本当のありがとうは、ありがとうじゃ足らない

「笑えたか?」 首を横に振る。 「ん―…難しいなぁ」 彼は、苦い顔をした。 笑う練習。 そんなのに付き合わせることなんてなかったのに。 なんで私に付き(まと)うの? もういいのに。 私は、 ただ一瞬だけ変わりたかっただけ。 この先ずっと変わりたいなんて思ってない。 ほんの一瞬。 たった一秒でもよかったのに。 私は、 いつもは暗くて誰にも興味を抱かなくて、 教室で一人で本を読んでいるような子だ。 学校の帰りの横断歩道。 一人の男の子が渡ろうとしていた。 けれどイヤフォンをしていて 車側の信号が赤信号なのに、 突っ込んでくる車に気付いていなかった。 何を思ったか、その瞬間だけ 周りからの評価とか 自分の性格とか どうだってよくなった。 あの人を助けたい。 それだけが心を支配した。 私は鞄を放って、 これまで出したことのない 全力疾走であの人にタックルをした。 結果、 この人と私は横断歩道を飛んで 車は過ぎ去って行った。 身体の痛みもあったけれど、 そんなのどうでも良かった。
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