たとえそれが・・・どくだとしても? By 歩

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  「お坊さんや一般の人の考え方なんかで、色々意見が分かれたりするもんだけどさ。私は、『見返りなんか考えず、自分がやれることをコツコツやればそれでいい』って結論づけてて。んでまぁ、そういう思想も絡めつつ色々思うことがあって、ボランティアに行くようになった節があるんだけど」  どれから手を付けようか、と、並べた材料を横目で流し見しながら、息継ぎのつもりで深く一呼吸。 「きっかけになりたいって時点で見返り求めてる感もあるから、胸張って偉そうなこと言えないけどさ。半ば自己満足だけど、確かに温かいもの、私もあの子らからちょっとずつ貰って、満更でもなかったなって、忠道くんから言われて気付いて」  たまに相槌を打って聞き入る忠道くんは、副菜か汁物を準備していたであろう手を先程からずっと止めていた。うっすらと微笑み、こちらを和やかな目つきで見守っている彼の、澄んだ黒い双眸が興味深そうに艶やかな光を浮かべている。 「そんで、面白いなーって。宗教や思想を突き詰めていくと、異なるモノ同士遠くなったり近くなったり。根底にある信じてるモノは全然違うけど。ボランティアの動機の一つとしては、スタートラインは違っても、ほぼ一緒の結論に達してそれぞれ通ってたんだなって」 「そうなんですね。確かに、興味深くて面白いです。これも神のお導きかも知れませんし、今度時間がある時に読んでみますね。その、達磨大師さんのお話」  にっこりと破顔して私の話を受け止めた彼の、見た目にも比喩的にも広い懐が、これ以上ない程尊いモノに感じる。ああ。本当に無垢で穏やか気性を持った人なんだなと、ある種の母性にも似た感慨深い気持ちで胸がいっぱいだった。 「達磨大師さん150歳まで生きたとか、座禅を長くしすぎて手足が無くなってしまったとか。目からウロコの話もあれば、ウロコどころの騒ぎじゃねぇほんまかいなエピソードも混じってるから結構面白いぞ」 「へぇ。おとぎ話とか童話みたいですね」 「うん、そのノリ推奨。信じるか信じないかは貴方次第ってやつ」 「それと、目からウロコは聖書由来の慣用句ですね」 「マジでか。ノーマークだったわ」  思えば、一人の人間とこんなにも長時間同じ空間で過ごし、他愛もない会話を延々と続けることなど経験した試しが殆どない。  最低限の人付き合いを除きコミュニケーションを極力避けている私にとって、これらためになるのがならないのか分からないマニアックな雑談を続けていられる状況だけでも、彼がいっとう特別な存在になりつつある証拠の一つであると感じられる。
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