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「あーれー? おかしいなー? 断る理由を探しても本当にないぞー?? 徹底的に潰された・・・」
頭をフル回転させた反動で喉が乾き、またも、烏龍茶の入っていないグラスの中身を飲もうとしていた。
つまらない天丼をする前に忠道くんの手が私の手首をそっと抑え、もう片方の手が汗をかいたガラスポットを「はいどうぞ」と私に差し出す。
こういう、息が合うと言うべきか、何かをなすべきタイミングをお互いに理解している辺り、きっと気配りの相性もいいのだろう。
「ありがとう」
ぶっきらぼうに礼を言い、グラスに並々と濃い茶色を注いでもらう。悔しいけれども、物悲しい気持ちよりも遥かに、うっかり笑みをこぼしてしまいそうな程に、安らかな彼の雰囲気諸共今の時間が心地よい。
「それで、お返事は? あ。もしかしてちゃんとしたプロポーズの言葉が必要ですか? ふふふー。もーしょうがないですねぇー」
「そういう事じゃなくてだな・・・」
「ぼくの褌を毎晩巻いてください」
「えっなんて??」
「ぼくの褌を毎晩巻いてください」
「聴き逃した訳じゃねーよ???」
「・・・ぼくの褌を毎朝脱がしてください?」
「この沈黙でもうちょい何かまともな答え思いつけたやろがいッ!」
こんな、ノリの悪くない軽快なボケも、苛立ちより先に楽しい気持ちが勝り、ついつい付け入る隙のある返答をしてしまう。むしろ軽快なツッコミを繰り出してしまうぐらいには、些細な事が馬鹿らしくなり清々しい程に過ごしやすい。
「はぁ・・・分かったよ」
少々ぬるくなったそれを一気飲みし、ぷは、と、高らかに息を吐く。ソワソワと、既に何を言われるか理解している風なニコニコ顔の彼に向き直り、傍らにコトリとグラスを置いた。
「反発する理由がないのは、認める。負けたのも、落ちてるのも、認めるよ。まんまと完敗だわちくしょうめ」
「そこは、『はい喜んで巻きます』じゃないんですか?」
「んなわけあるかい!」
側頭部に放った素早い平手打ちは、余裕だとばかりにヘラヘラとしながら酷く呆気なくかわされた。
立て続けに二~三度、両腕を目一杯しならせて、意地でも引っぱたいてやろうと攻撃を繰り出したものの。「照れ隠しですか?」なんて呑気なことをのたまいながら、クネクネと器用に上半身を傾けたご機嫌な彼に悠々と避けられてしまった。
もうどうにでもなれよと、投げやりになった私がこの後ぺしょりとテーブルに突っ伏したのは言うまでもない。
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