むしろご褒美です By 忠道

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 ぼくは扉を開け、後ろ手に素早く閉める。  対面したのはソファーにぐうたらと、背もたれに上半身を預け脚をだらしなく床に投げ出した状態で、寝そべっていた細長い巨体。 「うん? え? 何しにきたの?」  のんびりとした遅い口調。丸くした切れ長の目。床に脱ぎ捨てられた革靴。仕事という仕事を徹底的にシャットダウンし、タバコを嗜むためだけに身体を休めていた彼。  もとい、完全にくつろぎモードだったタカさんは、入ってきたのが身だしなみを整えた仕事モードのぼくだと気づくやいなや、火を灯したばかりだろうそれを呆然としながら口元から離した。 「ふう。ちょっと休憩がてら、お邪魔します」  密閉度の極めて高い喫煙所。ぼくは外界と遮断されていることを振り向いて目視で確認すると、ネクタイを緩めながら、プライベートモードへと即座にスイッチを切り替える。  一人用カラオケボックス、もしくは漫画喫茶のように丁寧に仕切られ、ある程度の広さを有し、簡単な仕事ならば持ち込んでも差し支えないようにアメニティや電源タップが用意され、定期的に清掃員の手が入り綺麗に整えられた個室が並ぶこの一角は、喫煙者でない限り近寄ることがまずない。  ただ、理路整然と並んだ個室郡の一番奥の端、目立たない位置のとある一室が、半ばタカさん専用とも言える状況になっているのは、社員ならば大抵のモノが知っていることである。 「タバコください」 「ええ?」 「いいからください」 「アンタが? 吸うの? マジで??」  動揺する彼を後目にズカズカと、手で座る場所を空けろと指示しながら、頭部と左半身を押しのけるように無理やり尻をソファーへねじ込むと、彼のYシャツの胸ポケットにこっそりと手を突っ込み一本をとっとと拝借。 「あ、ちょ、手癖! マジ、何処で覚えたのその悪い手ぇー」 「なんですかこれ。火がつかないんですけど」 「えええええ!?? ほら言わんこっちゃない、ど素人じゃんかー・・・くわえただけで火はつかな」 「じゃあこっち貰います」 「あぁーー! オレのおおおー」  右手が挟んでいたそれを華麗に奪いさり、見よう見まねで口元にあてがう。ためしに深呼吸して肺を煙で満たしてみるも、ぼくの眉間にはシワがより、堪能する暇もなく全ての煙を身体から排出する。 「っは! まず。うぇ・・・」 「ホント何しに来たの・・・!?」 「やっぱり要らないです。こんなモノ吸う人間の気が知れませんね」 「オレいじめ? オレをいじめるためだけに来た系??」  タカさんは横たわった状態からその場に座り直し、長い脚を組む。ゆとりをもって設計された筈の個室だが、190cmと少しの身長を持つ無駄に縦長い彼ともなると、備え付けのローテーブルが伸ばした脚に当たってしまいやや窮屈そうだ。
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