むしろご褒美です By 忠道

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  「自分で体を痛めつける、どこかの誰かさん達の気持ちを味わってみようとしただけです」  人差し指と親指で摘んだ、良くない煙をあげているそれをあらゆる角度からまじまじと観察する。赤く光る一部に焦げた巻紙、灰になったものが落ちないよう、時折灰皿の上に移動し自然落下を待った。  他人が喫煙者であっても、ルールを守ってTPOを弁えた上で嗜んでいる人間はどんな意味でも許容範囲内ではあるのだが。  それはそれとして、何度試して見た所でぼくにとってのコレは喉が焼ける上に舌が不快になる、ただの不味くて高い不可解なモノでしかなかった。 「喫煙者をドM扱いしないでくれない・・・? ただでさえ年々風当たりキツくなってて肩身狭いんだからー・・・」  名残惜しそうに眉をへの字にし、しかしぼくの手からそれを取り上げる様子もなく、わざとらしくクスンと言わんばかりの悲しそうな顔を見せつけてくる。  わざわざぼくの視界に入るよう、組んでいた脚を解き膝に肘をつき、前のめりになって、可哀想な年下を演じて見せつける、なんてあざとい人間だろう。 「あ。これタカさんと関節キスか」 「棒読みでそんなこと言われても・・・どう反応すればいいの・・・?」  だが、こちらとしては知ったこっちゃなかった。大方ツッコミ待ちであっただろうおちゃめな彼には、秀逸な返答の代わりとして新しい灰が増えない内にそっとタバコを突き返す。 「反応なんか求めてませんよ。そのままそこに居てくれたらいいんです」 「えー・・・。あの、タバコ吸うけど・・・?」 「煙いんで消してください」 「あーうん。出てけ?」  いつものようにヘラヘラと。真顔で放ったぼくの悪ノリを苦笑いで受け流しつつ、タバコは忘れずにしかと受けとって、彼は親指を立てた右手で出入口を指す。 「冗談ですよー。多少の香りは平気だし、タカさん、前に比べたらだいぶ軽いの吸ってるから特に気にしてません」 「はぁ・・・そうですか」 「はい。そうです」  ぼくの鼻からフフンと、意図せず短い笑いがこぼれた。手持ち無沙汰になった腕を胸元で組んだ頃には、口元にもそれがほんのりと移り、平気そうな様子で煙を吸引している彼が、背もたれに倒れながらつられて微かに笑う。 「・・・随分と調子良さそうだけど、何しに来た系?」 「ちょっとした御報告? ですね」 「報告?」 「ええ」 「擬装結婚を前提としたお付き合い、やめました」  またも彼の目が丸くなった。先程よりもずっと大きく、動揺していることを隠し切れていない様子で。
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