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「え、えぇ・・・? よ、予想外・・・あんなにお気に入りだったのに」
いかにも大混乱。と、いった様子で、彼は一瞬ポカンと静止した後に目を泳がせて動揺する。
日頃からある程度成り行きを想定して動く癖がある彼が、こうして声を一部裏返すほど慌てふためいている姿が面白くて仕方なく、ぼくはニヤリと、仕事で凝り固まっていた表情筋を動かししたり顔を晒した。
「はい。だって、擬装結婚は辞めても別れてませんし」
「はえッ!? 別れる訳じゃないんだ? ・・・びっくりしちゃったよもー。じゃない! どういうことなの・・・」
胸を撫で下ろしたり、早口になりながら左手であからさまなツッコミをしたり、その左手を即自らの頭にあてがい額に指先を当てて項垂れたり。
「愛してますんで。どう転んでも絶対に逃がさない」
「怖っ。うん、えっと。おめでとうございます? で、次は何? 御祝儀下さいとかー?」
「いえ。結婚の予定も現在ありません」
「ん? んんん??」
「正確には、現時点で籍を入れることもなければ、神の前で誓い合うことも、嫁に貰うことも、婿養子に行くことも、予定にありません。白紙です」
「んん、んん?」
「そして、現在のぼくと歩さんの関係は、お付き合いという形でもありません」
「んんんんん??」
賑やかな百面相を存分に楽しみながら、少し振り回してやるつもりで、情報をあえて小出しにしていく。こうしてタカさんで遊ぶのは、ぼくのささやかな趣味に近い。
「簡単に表すなら、別れが来る日まで一緒に居ようって口頭で確認し合った『パートナー』、もしくは『相方』とかそういう感じです」
取っておきのオチを披露して、ぼくは胸をはる。
ドヤ顔するな。他、それに類似する突っ込みで言葉を阻まれると予想していたが、話の展開についていけなかったのか、タカさんのキレッキレな指摘はなく。
「強いて現実味のある言い回しをするなら、『選択的事実婚』ですね」
代わりに、口にくわえたタバコがやる気なさげにゆらゆらと一筋の煙を立ち上げていた。
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