むしろご褒美です By 忠道

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 調子よく足を組みかえ、邪魔にならぬよう整髪料で軽い七三に整えていた前髪を手ぐしでそっと直す。仕事中は基本的にオールバックにはしないものの、プライベート程いい加減な無造作ヘアーも避ける。 「色々調べたら、三々九度(さんさんくど)っていう、やり方次第では宗教色を無くして宗派を問わず婚姻を契る方法も出てきたんで、それはどうですか? って提案したんですよ」  よって、無難で、量産型サラリーマンと称されるこの顔面と親和性があるこの形に落ち着くのだが、整髪料自体をあまり好まないせいで、こうして、気を弛めた際には無意識に毛束を触りしばらく止まらなくなってしまう。 「和装でお酒を飲み交わすんですけどね。宗教色を取り除くなら、お互いに対して愛を誓い合う形になるから許容範囲。白無垢や角隠しもまだ許容範囲内。って言ってくれた所までは良かったんですけどね? 実は、歩さんの地元だと結婚式をやったやらなかった関係なく、正式に執り行われるお決まりの儀式らしくて。やるって聞いたら一族総出で押しかけてくるけど大丈夫か、あわよくば実家のカオスに引きずり込まれるけど、大丈夫か? ってめちゃくちゃ心配そうに言われたんですよ。淡々と、物凄く、慎重に、諭されて怖かった・・・」  長々とした独壇場を遮ることなく、タカさんは一言一句聞き入っている。気が乗って、身振り手振りが大きくなり、ついつい早口になっていく。  歩さんの口真似をし終盤にげんなりと肩を落とすと、タバコを挟んだ指の隙間でぎこちなく苦笑いをしたのが見えた。 「あ。それと、調べてる内に『角隠し』って昔は『夫に従います』『従順になります』っていう意味で行なわれてた説もあるって知って。これがぼくの中で全く納得出来なかったので、保留になりました。他の案も沢山出ましたけど、お察しの通りです」 「なんかさー。アンタら両想い自覚したらしたで超面倒臭いなぁ・・・そんなに先の部分まで考えてるなら、もう式とか儀式とかなくて籍だけバーンって入れれば良くない? バーンって」 「って、なりましたよ? 最初は」 「まぁだ悶着あんの??」  半目でぼくを眺めている彼は、話の長さや関係の複雑さにうんざりしているようだった。
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