むしろご褒美です By 忠道

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   「はぁ、もー、許すけどさー。向こうは松井のこと、兄貴分として心から愛してるからね。それも含めて、オレはアンタには甘いもん。だから許す」  対角線上に腰を下ろし、のうのうと言ってのけた彼はいっとうご機嫌だった。  しかしながら、本当に許されているのかに関しては甚だ疑問である。何せ、ソファーの長い辺にうつ伏せで倒れているぼくは、くすぐられすぎた余韻で時折情けなく痙攣しており、頭を上げることなくぐんにゃりとしている。 「に、しても、そうっか・・・。オウム返しみたいだった松井にも、自発的に愛してますって心から言えるような人、出来たんだねぇ。なんか、感慨深いなー」  召されるかと思った。等とジョークを思いついたが筋肉の引き攣りが辛くてやめた。 代わりに、伏せていた顔を斜め下にぎこちなく動かし、歩さんを彷彿とさせるしっとり湿った視線を送ってみせれば、口角を存分に上げて、晴れやかな様子の彼と目が合った。 「そういう所が・・・オカンですよね君」 「やーだーなぁ。オカン呼び定着させないでよー。最近浸透してきちゃってさぁー。いじられ始めてるんだよねぇー・・・」 「だって世話焼きですし」 「だってもクソもあるかって。よっぽどの人じゃないと、世話なんか焼きたくなんないよー。めんどくさい」  ペショ。と、バンザイにしていた両腕の間に頭を埋めた。きっとこの調子なら、午後からの仕事はこれまで以上にはかどるだろう。そろそろ早めの昼ごはんにしようかな、と、薄目を開けて左腕の時計を確認する。11時を回ったところだ。  会話もこの辺りで済ませて、カロリーを摂取したら、午後からの業務には精を出すとしよう。 「ですよね。興味無い人にはとことん無関心だし、なんなら、もしもの時は踏み台にするの余裕だし、いくらでも鬼畜になれますもんね君は」 「だって興味無いもーん。タカさんどうしてもみんな等しく尊いーなんて、博愛主義にはなれないやー」 「ぼくもそれは同じですけどね」  喋りつつ、筋繊維が痛む身体をむやみに刺激しないよう慎重に起き上がる。乱闘後かと疑うほど乱れたシャツを叩き、何処かに飛んで行ったネクタイや胸ポケットのボールペンを探し辺りを見渡す。 「アンタはまだ優しいっしょー。怒らせてもせいぜい、会社に居られないとか、地元に戻れないとか、ひと握りの慈悲は残しそう」  ヘラヘラと、自らも身支度を整えながらタカさんが呑気に笑っている。 「オレなら、サクッとやっちゃう自信あるからねぇー」  
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