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最初に聞いたのは、キュッと、フローリングに湿った裸足がつんのめった音。
続いて大きなシャツが立てた羽ばたくようなバサバサという悪あがきに、酔っ払ったおっさんの如き間抜けな悲鳴、そしてドゴッという痛そうな着地音。
「あ、歩さぁぁーん!??」
「く、くぁうせどらふとぐぃあふじこるぷ・・・」
何を言っているのか分からない。
ぼくは慌ててベッドから起き上がると、抵抗の末に膝から崩れ落ち床に大の字になった歩さんに駆け寄る。プルプルしている。膝を強打したからだろう。
「便所・・・便所、便所、膝が子鹿に・・・」
「だから付き添いますって言ったのに・・・足元フラフラじゃないですかー」
右側から適当な隙間に腕を差し込み、無抵抗の彼女に肩を貸した状態で立ち上がる。顔は下を向いたままだ。体もまだ余韻で火照っている。
「誰のせいで、こうなったと・・・?」
「あ、オモチャいります? 自分で処理するなら手っ取り早いですよ?」
「いらんし、便所行く、って、そういう意味違うわ・・・」
もたもたグダグダと。酸欠と疲労でおぼつかない足取りの彼女を、様子を伺いながらトイレへと案内する。
本番どころか本当にキスだけでことを済ませたのだ。ぼくには女性の欲求の強さは理解しかねるが、流れとしては、てっきり自己処理をするためのトイレだと思っていただけに、その答えはとても意外であった。
「俺にそんなんぶっ込んでみろ・・・ぶっ殺すぞ・・・」
「あの、さっきから言動が不安定ですけど、大丈夫ですか?」
「ぶっ殺すぞ・・・」
「あ、はい、すみません・・・」
らちがあかなさそうなので、そそくさとトイレにご案内。ドアを開けて彼女を解放、慎重に閉めて、壁に背を預けもしもの時のために待機する。
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