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何だか様子がおかしいなと、疑問に思いつつぼくは彼女の傍へ寄ると、ひょいと、あっという間に持ち上げお姫様抱っこの状態に。
せいぜい160cmと言った程度の大きさで、抵抗も特になかったため容易だ。
━━眠いのかな?
頭をぼくの肩に預け、大人しく抱かれている彼女はまだどこか分からない所を見つめていた。別段体調が悪そうな訳でも、ぼくに陶酔してこのひと時を満喫している訳でもない。
スキンシップの終了からそこそこの時間が経ったにも関わらず、どこか心ここにあらずといった風に意識がハッキリしていないのだ。
「いい匂い・・・」
寝室に入ろうと足でドアをいじくり回して居た時だ。彼女がそう呟いて、とびきり大きな深呼吸をしたのは。おそらく、三つほどボタンを開けた、ぼくの、正しくはタカさん用に常備している大きなシャツの襟が、ふんわりと顔にかかったからで。
「え、あ・・・いつも使ってる柔軟剤ですよ?」
「忠道くんの体臭・・・」
「そっちですか?」
「無臭なのに」
「なら臭ってないじゃないですか」
「時折奥から香る汗の、塩気を含んだそれが揮発した時の弾けるように広がる微かな雄の」
「照れるのでその辺でやめてください」
「・・・御意」
はだけたシャツのせいで、彼女がぼくの胸に埋めた顔はほとんど確認出来ない。こんなに大胆な言葉を、恥ずかしげもなくつらつらと述べるような人だっただろうか。
一抹の不安を抱えながらも、ぼくは止まったままだった脚をいよいよ動かし寝室へと入る。
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