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転校生が来たらしい
人間の三大欲求と言えば『食欲、睡眠欲、性欲』で、ただボクはそれらを満たしているだけ。性欲を満たす為の行為が故にビッチと言われてしまっても、然程気にしていない。
いましがた、廊下に座り込みそうなボクに向かって「ぶりっ子」と吐き捨てた名前も知らぬ生徒がいたのだが、まあ仕方がないのかなと思う。
つんと顔を背けて立ち去っていくのを、お腹をさすりながら見送る。
「……夕食は食べてからヤるべきか」
有象無象の声に耳を傾けている暇があったら、ボクはいますぐにでも食堂で美味しい食事をしたかった。
お腹と背中がくっついてしまいそうなくらい空腹のなか、よろよろと廊下を歩いていく。昨日、夕食を食べずにベッドへもつれ込んだ結果遅刻しそうだったから朝もほとんど食べていない。
食への欲求に死にかけていると肩を叩かれ、「あーきちゃん、今ひましてる?」と声をかけられた。振り向くとお洒落な男が人当たりの良い笑みを浮かべてボクの顔色を伺ってくる。然りげ無く腰の辺りを突いてくるコイツの指を掴んで、およそ人体的に曲げてはいけない方向へ力を加えた。
「あ”、痛いイタイ! やめてよ晶ちゃん……。どうしたの、ご機嫌ナナメ?」
「……お腹空いた」
「ふふ、かわいい顔が怖くなってるよ。よおし、俺と一緒にご飯食べに行こうか」
腕を掴まれ返事をする前に歩き出した。まあこれ幸いと、引きずってもらいたいボクは体重を預ける。コイツこと白石の耳に光る、黒いピアスを眺めていると、気持ちだけ空腹が和らいだ。
ふわふわ自由に揺れる髪を目線で追いかけて、今日あったこと、これからの予定を適当に話していると食堂の入口が見えてきた。
「――着いたよ」
ようやく辿り着いた、愛しの食堂。
室内から漏れる暖かな光に眠気を誘われ、ぱち、と瞬きをしながらも扉の向こうに足を踏み入れた。
ワ、とさざめきが広がっていく。
やれ抱いて欲しい、こっちを見て。カッコイイです、白石サマとの声に笑いが落ちる。それに気がついた白石が拗ねたように頬を膨らませ、ボクに「なに、なにか可笑しい?」とわざとらしく問いかけた。
身長の高い白石に合わせるよう、ボクが首を傾けると野太い声援を頂く。
傍から見ればまあ異常とも取れようこの光景。明星学園は同性へ憧憬や性欲を向けることのできる人間が多い。ありていに表現すれば、バイが多い。そんな特性はこのようなところにも表れていて、白石のような人気のある生徒はいつだって注目の的だった。
ほら、ある小柄な生徒が白石をうるうると見つめ、ある生徒はボクを睨みつける。チワワちゃんにぼんやりと視線を向けてから、お腹空いたと口にしてボク達はふたりがけの席に着いた。
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