転校生が来たらしい

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   メニュー表であるタッチパネルを操作する白石の様子は確かに様になっている。スラッとしているから制服が映えるし、そこそこ良い造りの椅子に丁度良く収まっていた。液晶を眺めて唸る彼の顔は人気があるだけあって整っている。薄茶の髪が彼の動きに合わせて揺れた。 「晶ちゃんは何が食べたい?」 「温かいもの」 「今日は少し肌寒いもんね。ヨーグルトはやめてアップルパイを頼もうか。メインはうどんでいい?」 「……ん、」  小さく頷いた。  あまりにもボクの食事を熟知している白石をじっと見つめれば、下を向いていた彼が顔をあげる。 「どうしたの、やっぱり変えたい?」 「違う。白石が、なんだろう。おかしい……?」 「え、ナチュナルにディスられた」 「好みを的確に当ててくるから。えっと、白石はスゴい、……?」  ボクが懸命に考えた褒め言葉を白石は「……ふ、ふは」と笑ってみせた。なんだ、褒めたのにと思えば、軽く謝られる。 「晶ちゃんと結構長い付き合いだし、それくらい分かるよ。好き嫌いは多いけど好物を見つけると目がキラキラするところとかね」 「ボクは白石のこと、全然わかんないけど」 「名前を覚えているんだから十分だよ」 「……ハードルが低い」  あまり期待されていないということだけど、ボクはそれくらいで丁度良い。過度に他者からの願望を押し付けられて、潰れてしまいそうな人は何度も見ている。例えば昨日の相手。彼はピロートークが愚痴で終わる。嫌いじゃないけど、疲れているのは少し可哀想だと思った。 「あと、俺と話していてつまんなければそれでいいよ」 「うん。白石と話すは好き」 「そっか、そっか。おにいさん嬉しいから漬物のナスを食べてあげる」 「ちょろい」 「口に出てるんだよな」  話していると頼んだものが届いた。ウェイターの彼が、ごゆっくりどうぞと頭を下げたところで箸を持ち上げる。つるりとした麺、柔らかく煮込まれた野菜と鶏肉を掬い上げて、息を吹きかける。温度を下げようと、ふーふーしてから口に運んだ。やや猫舌気味のボクが四苦八苦していると、ナスを食べてくれている白石がドアの方向を見つめて、げ、と顔をしかめた。  刹那、轟く黄色い悲鳴。  入口からやってきた集団に動きをとめる。 「会長サマ、こっち見てください!」 「ふ、副会長サマ、今日も大変麗しく!」 「書記サマ、僕とお昼寝しませんか……!」 「―――……な、――――……ですね」 「――…………ぇ、え……!」  後半は聞き取る気がなかった。十中八九、生徒会を褒め称える言葉だ。む、と顔をしかめれば白石が苦笑した。ボクが食事中、大人しく食べていたい性格なのをわかってるから「早く食べようか」と提案するのだ。ただ生憎、マイペースなボクはどう足掻いても食べるスピードが変わらない。  生徒会も毎回来るわけではないお陰でいつもは騒音に悩まされる心配なく生きている。  あ、ちくわみたいなのが入っている。  もぐもぐ噛んでいると、何故かざわめきがこちらの方向へ移動しているように感じた。ボクが首を傾げると、白石も不思議そうに辺りを見渡した。そうして何かをみ発見したらしい。 「晶ちゃん、帰らない?」 「まだ食べ終わってない」 「お腹が空いてここに来たんだもんねー……」 「アップルパイも食べてない」  どうしてと尋ねれば、苦々しい表情で呟いた。 「……んー、嫌な予感がするんだよ」
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