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前に置かれたホワイトボードに向かって下、コの字の角付近に座れたのは誰かの配慮だろうか。左には委員長がいるので、知らない人だらけのなか接触しなくて済みそうだ。
「――…失礼しまーす、っあ、こんにちはー」
今日来るのがボクと知らされていたのかいないのかは分からないが、入ってくる人入ってくる人、殆どの生徒が「えっ?」と反応する。ボクもここにいる全員が”委員長”なのか気になった。
「委員長、皆も委員長?」
「あ、俺はそうなんだけど結構色んなところから集められてるよ。新入生歓迎会は普遍的に意見を集めたいってことで、割とランダムなんだ」
「帰宅部も?」
「そうそう。一応、参加するか確認は取るけどね」
へえ。だから雰囲気がばらばらなのか。
ひとり納得し、室内を見渡していると穏やかな風のように声が響いた。澄んだ声色に目を向けると、自然と背が伸びてしまいそうな微笑を浮かべた彼がゆるやかに会釈をしている。
「副会長の諏訪です。本日も宜しくお願いしますね」
お喋りをしていた生徒の気を引く彼は真っ直ぐにこちらへ向かって来ていた。
嫋やかに笑む彼は流れるように近くの席へ腰を落ち着けると、さもいま気づいたかのようにボクを見た。
「おや、君は確か綾辻君でしたよね。今回はわざわざご足労いただきありがとうございます」
にこり。わざとらしい挨拶に頬が引き攣った。コイツ、ボクが来るとわかっていたのか。
鳥肌が立ちそうな腕を静かに擦って、目の前に座る理仁と視線を合わせた。
「副会長サマ、こんにちは」
僅かに目を見開いた理仁。
期待通りの反応に内心舌を出す。
それでも流石は猫被り歴が長い。すぐさま余所行きの顔をつくり、こんにちはと返してくる。
その顔をあまり直視していたくなくて、視線を窓の方向へ投げた。何で理仁が担当なんだろう。来なければ良かった。委員長が頼んできたから、荷物としてついてきただけなのに。
理仁が副会長サマをしているときにここまで近づくのは初めてで、貼り付けた笑みを向けられるのは違和感があった。あまり見ていたくない。
「これが資料だから、進行に沿って読んでね」
「ありがとう」
暇なので配布された資料に目を通す。ここ5年で行われた内容やその時の予算、今回出たアンケート調査の結果をグラフ化したものなど、しっかり作ってあった。
「――ではこれから新入生歓迎会についての会議を始めす。前回に引き続き、内容について検討しますのでどんどん発言してください。今回と次回で内容を固めていきたいので――………」
ホワイトボードの前に立っていた生徒が前回話し合った内容を掻い摘んで説明する。既に書かれていた文字を目で追い、理仁が「ありがとうございます」と言って次へ繋げた。
「かくれんぼ、という遊びなら体力の消費も抑えられ、次のレセプションに支障がないかと。また文化系の生徒も楽しめる工夫はどの案にしても取り入れたいですね」
「ただ些か地味ではないですか? 単体では盛り上がりに欠けるかと」
「そのあたりは詰めて考えないとねー」
「アンケートの結果も含めて要素に足していった方が良いとの意見もありますが、なかなか……」
他のメンバーは真面目そうに頷いている。内容はかくれんぼだけど。
特に面白いこともなく、話は恙無く進んでいく。しいて言えば「鬼ごっこが何故か人気でしたが、走り続けるのは趣が足りませんね」と言ったことで崩れ落ちる生徒がいたことか。それらを笑顔で一蹴したところで、誰かの嗚咽が小さくなる。
「……綾辻くん、大丈夫そう?」
「え、うん。特に問題はない」
「なら良かった。わからないことがあったら聞いてね」
「何でおにごっこに票が多いの」
「組織票?らしいよ」
調査結果一覧みたいな項目を指差し、委員長の顔が近づく。手元を覗き込み、文字列を見て、憶測だけどねと苦笑する委員長に変なのと返したところで理仁の質問が飛んで来た。
「綾辻君ならどうしたい、とかはありますか」なんて急に聞いてきたので、あるわけないと思いながら適当な返事をする。意地が悪い。
転がったボールペン。空にぽっかりと浮かぶ雲。
置かれたペットボトルの水が反射して、長机に模様を描いている。
視線を資料に落としながら、時折副会長な理仁をバレない程度に見ていると本格的に話がされ出した。
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