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かっこつけると背筋が寒くなっちゃうね〜こういうのは委員長の役目だよ〜と自分で言った落合先輩だったが、モニターに向ける顔は至って真剣そうだった。
普通にかっこいいと思う。大抵はへらっと笑っていて柔和な雰囲気を纏っているけれど、副委員長になるということは能力も高いのだろう。
適当に相槌をうっていると、落合先輩の指先が前をさした。くる、と一回指を回してボクに話しかける。
「ねえ、アキくん。楽しそうだよねえ、新入生歓迎会。俺も見廻りながら参加したかったんだけど委員長が碌な予感しかしないって却下してさあ」
「脳筋?」
「そうそう! よく覚えてるね。椅子の上でじっとすんの無理じゃんって思ってたんだけど」
落合先輩の言う通り、視線はモニターに向けている。
生徒が一斉に体育館を飛び出し、何人かで顔を突き合わせていた。良い天気だ。澄晴の空のもと、生徒達が各々動き始めた。
「こういうのもまた違った、うーん、趣?があるね」
「そう?」
「うんうん! 皆が盛り上がっている姿を上から見られるのも案外楽しいなあ。まあ仕事なんだけど、これ自体は負荷が少ないし」
「副委員長だから?」
役職持ちなのに余裕のある仕事を振られたのか。不思議に思うと、落合先輩が「それがさ、」と言って少し眉を下げた。
「副委員長も少しは休んでください!って言われちゃってね。大丈夫って言ったんだけど」
「良い人達」
「本当にそうなんだよ。風紀ってやることもいっぱいあるし、日常でも行事でも気を張ることが多いけど皆イイコだから頑張れちゃうよね」
画面の至る所に散らばる風紀委員。
風紀には世話になっている。今もこうして合法的にサボらせてもらっているわけだし。せめて与えられた役割はしっかり果たそうと、隅から隅までチェックする。ただ今回は個人で動くのではなく、3学年全てをグループに分けているのでなかなか悪さしにくいようだった。例年よりも問題が少ないと落合先輩も言っている。
それでも事は必ず起きる。
しばらくは少しずつ交流が深まっていたり、ゲームが進行していく様子を見ていたのだが。このまま第一部は何事もなく終わるかと、時計を見て思った瞬間に視界の隅が奇妙な動きを見せた。
「……」
薄暗い廊下。下級生に上級生が歩み寄っている。どう考えても空気がおかしい。角度的に相手はカメラに気づいていないのか、下卑た笑みを浮かべている。
落合先輩の袖を引っ張った。
「先輩。下級生と3年に何かある。場所はたぶん調理室前の廊下」
「わかった」
こちらを見た。すぐさま委員に指示が飛ばされる。ふわふわした表情が一瞬で引き締まり、数秒の間再度確認をすると無意識下の域で口と手が動き出していた。
副委員長。風紀委員。学園の番人。
ただいくら対応が迅速といえど、彼らが到着するまでに若干のラグが生じてしまう。
下級生の怯えた表情が見える。3年の余裕ぶった表情が見える。気色悪い。
「アキくんが早く気がついたから大丈夫だよ。あいつら足はめちゃくちゃ早いから」
「……雰囲気に出てる?」
顔も触ったが分からない。
「んー、野生の勘!ってやつだね。ほら、俺達嘘ついてくる相手とも対峙するから、こう、自然と?」
白石といい不思議なものだ。先程までの表情とは打って変わって、にっこり笑った落合先輩に頭を掻き回された。これでは親戚のおにいさんに拍車がかかる。
以前もそう思ったと言えば、しばらくきょとんとしてけらけら笑われる。理由を問えば、まだ秘密だと目を細めていた。
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