A. 始まりの予感

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 どのくらいの時間が経ったのだろうか。私がイケさんに色々聞いたりしたことで誤解をさせてしまったのだろうとあれからずっとからっぽになった自分を繰り返し責めていた。が、私のその張り詰めていた気持ちも時間とともに更に緩んでいくのもわかった。座り込んでいた椅子の硬さにやっと気がついた。現実に戻されると、置き去りにされた教室の広さに今更ながら気づいた。窓からは教室の奥に向かって日が差し込んでいた。どこか寂しげな斜陽だった。今日は梅雨入りしたとは思えない程の良い天気だったことを思い出し、なぜか一つ大きなため息が出た。意味のわからない感情が込み上げてきて胸が苦しい。そしてこれからの練習のことを考えるとやはりかなり沈んでしまうのだ。快晴にも関わらず、まさに心の内は梅雨にふさわくじめじめしていた。これから私はイケさんとどうやって接していけば良いのか、未だ全然わからないでいる。  結局、斜陽の教室にいることが苦しくなって教室を後にしたが、行く場所も居場所もあるわけではなかった。今日のバンド練習にはもう戻らないと決めた。というか、戻れなかった。今まで練習をサボるなんて一度もなかったのに。戻る場所を失くした私は自動的にマンションの前まで帰され、その頃にはすでに日も暮れていた。そして薄暗くなった部屋はいつもよりも寂しさを醸し出していた。空っぽになった自分・・・ 『これからどうしたらいいのだろう』  早速、ハルトくんからのラインだ。 ”アキちゃん、練習来なよ” ”ごめん” ”イケさんから聞いてるから、大丈夫だからさ” ”分かってる。でもどうしても今日だけは行きたくない” ”シュンも心配してるよ” ハルトくんのラインの言葉が私にはふんわり口調で聞こえてきて、我慢をしていた涙が一気に溢れ出した。  ふんわりしたゆっくりなテンポの優しいメロディーのようなラインに、時々iphoneの画面が滲んで見えなくなっていた。でも泣いている事を悟られない分、電話でなくて本当に良かったと思う。 ”うん。ありがと。シュンくんにもよろしく伝えて。ごめんね” ”ボーカル、決まったよ。明日紹介するから絶対来なよ” ”うん、わかった” どこまでも優しいハルトくんだ。この優しさがさらに私の涙を誘発させていたことも事実だった。
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