A. 始まりの予感

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 次の日になっても、行きずらさは変わらなかった。そして泣いていたせいで目が腫れていて、朝から氷で冷やしたりとかなり大変な土曜日の始まりだったがどうにか落ち着いた。が、気持ちはまだボトムのままだ。このテンションの低さは周りに引かれてしまいそうなレベルだ。そして何よりも行きたくない気持ちでいっぱいだ。でもバンドを纏めてくれていて、この件に関して全てを知っているハルトくんの気持ちを思うと行かない訳にもいかず、いつまでもこのままという訳にもいかない、そう思ってマンションを出た。今日も梅雨に似合わない太陽が私を照りつけている。そして大学に着いた。こんなに大学までの10分が短いと感じた日はなかった。私はこのテンションを断ち切るべく私は身体中の息を全て吐き出し、空気を大きく吸い込んでからいつものように扉を開けた。もちろん教室の扉の前で笑顔を作ることも忘れはしなかった。 「おつかれー。」  練習室として使わせてもらっているのは使われなくなった大学の古い建物の一室で、締め切った湿気を帯びた教室の匂いが私を一気に襲った。練習部屋にはもうみんな揃っていた。そして部屋の奥手に集まっているみんなの顔が一斉にこちらを向いた。いつものように振る舞おうとしている私の声は取って付けたようで浮いていたに違いなかった。みんなの視線にハッとして足が一旦立ち止まるとすぐに、ハルトくんが右手を高く上げて手招きをして私を呼んだ。 「おぉ・・・来たね・・・アキちゃん・・・こっち。」 少しだけ急いだ感じに振る舞う私は、息苦しい湿気を帯びた空気の中をみんなの方に行く。 「キーボードのアキちゃん・・・唯一の女子。」 と紹介され、 「アキです、よろしく!」 とラフに返答した。 「これが・・・今までの・・・メンバー。」  それからハルトくんは既存のメンバーに向かって新メンバーの紹介を続ける。 「えっと・・・それでこっちが・・・ボーカルのナオミチ・・・一応俺の知り合いで・・・キャンパスは離れているけど・・・理工学部。」 「どうも、はじめまして。川上ナオミチです。ハルトとは高校が一緒で、一応バンド経験者です。よろしくお願いします。」  彼はあまりにハルトくんとは対照的なシャープな喋りでバッチリ決めていて、私は自分のラフな自己紹介をやや後悔した。そしていかにもボーカルらしく身長も高く細身で、ルックスも申し分ない。  ついにメンバーが揃って、このバンドは軌道を走り始めた。そしてイケさんの方に不意に眼をやると一瞬目が合い、イケさんは即座に目を逸らした。お互いを避けているという状況に気まずい空気は変わらず流れ続けている。
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