A. 始まりの予感

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 ボーカルを迎えての初練習が終わり、メンバーは皆、鈴を鳴らすような美しい声に驚かされていた。そして練習を終えると正式なバンド結成祝いとボーカルの歓迎会が待っている。相変わらず私の気は重いままだった。 「めっちゃボーカル、いいねえ。何で、こんなボーカルと知り合いなのに誘わなかったんだよ?」 いつもカームで鋭いシュンくんが言うと、ハルトくんは笑いながら答える。 「ナオミチは・・・かっこ良すぎるから・・・誘いたくなかったんだよね。」 そう話すハルトくんに、新しいボーカルくんが急いで言葉を添えた。 「いや、誘ってもらってたんだ、ハルトに。でもキャンパス違うから、俺はそこでバンド組もうと思ってたんだよね。でもいなくてさー。理工のヤツって、音楽とかあんまり興味ないのかなぁ。まぁ別にいいんだけど。で、やっぱここに入れてもらおうかなって。」  ボーカルくんは見た目から受けるカッコ良いイメージとは違って、喋り方や付き合い方が男子っていう感じを受けた。ハルトくんと戯れている時もすごく楽しそうで、ガキっていうか少年というか、そういう面が見え隠れしていて可愛いという印象を受けた。私は彼のギャップに少々驚かされてしまっているようだ。 「よし、行こう!・・・いつもの『花ぐるま』に。」 「なんだよ、『花ぐるま』って。」 とボーカルくんはハルトくんに透かさず口を挟む。 「よく行く・・・居酒屋の名前。」 「全然、バンドに合ってねー。」 ハルトくんとボーカルくんの会話はテンポ感が全然違うのに、なぜか噛み合っていて心地良く感じられ、バンド内の雰囲気がグッと良くなった気がした。正直、この光景にホッとしてしまっているのは私だけなのかもしれない。 「また『花ぐるま』か。ほら、そこの高校からのコンビ、行くぞ。」 とシュンくんが揶揄うと、気の合う二人が言う。 「何でこいつとコンビなんだよ。」 「何で・・・コンビ?」 と息ぴったりな様子が窺えて、笑いを誘っていた。イケさんも笑っていて、少しホッとした。
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