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いつもの居酒屋で歓迎会が始まった。土曜日なので店はいつもより活気があった。いわゆる安くて学生が利用する飲み放題を掲げた居酒屋『花ぐるま』なのだが、意外にもハルトくん率いるこのバンドのメンバーはみんなお酒を飲まない。ちなみにハルトくんとボーカルくんと私はすでにハタチで、イケさんは一つ上の21歳、成人していないのはシュンくんだけだ。シュンくんはもちろん乾杯もジュースだったが、このバンドは乾杯の時以外もジュースで別に問題はなかった。要するに結成と歓迎と謳ったただの食事会で、居酒屋でやる必要があるのかと、ここに来るたびに疑問に思っている。
「じゃあ・・・俺たちの・・・バンドの・・・。」
「ハルト、もういいよ。かんぱーい。」
「おーい!・・・」
というハルトくんとシュンくんのそんな調子で始まった。ハルトくんとシュンくん、ハルトくんとボーカルくんの組み合わせの掛け合いが終始笑いを誘っている。でもイケさんは早いペースで飲めないお酒を飲んでいて、すぐに酔い潰れて寝てしまった。ここでの半分以上の時間、イケさんは寝たままだった。なんだか申し訳ない気もしていたが、シュンくんとハルトくんは「気にするな」と何度も言ってくれて、気を使ってくれているその優しさが逆に痛く苦しい気持ちにもさせてもいた。そして、潰れたイケさんを送っていくからと、シュンくんとハルトくんはイケさんの両脇を抱えて帰ることになった。
「お疲れー!・・・また明日・・・。」
「お、気をつけて帰れよ。」
「じゃあな!」
3人の姿を見送って、ボーカルくんと私はその場に取り残されてしまった。
「川上くんもお疲れ様。楽しかったね。また明日。」
「おぉ!お疲れ!」
とやや驚いた反応をしたボーカルくんに声を掛ける。
「ん?大丈夫?酔った?」
「いや、一杯しか飲んでないし。」
「だよね。」
と私は笑って答えた。
もう外はすっかり暗くなっていて、大通りは店の灯りでこうこうと輝いている。
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