A. 始まりの予感

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 私は高校を卒業をして、東京の大学に進学した。同じ高校からはたくさんの同級生が東京の大学へ進学し、同窓生で作る東京会などというものが存在するほどの伝統ある高校の出身だったが、やはり親元を離れての上京は不安を隠しきれなかった事は言うまでもない。入学した大学も都心にしたら広大な敷地を持つ伝統ある大学で、皆が羨むような大学であったが残念ながら私の希望した大学ではなかった。そして本当はその大学の希望していた学部にも入れずに、第2希望の学部への入学だった。実際のところ、私は入学と同時に将来の夢だったものをなくして、この大学のこの学部を卒業して一体何になれるのかさえもよく分からないまま大学の門をくぐったのだ。周りのみんなの希望に満ちた輝く瞳が眩しいと思った。おまけに地方出身の私は東京の風になかなか馴染めずにいる。それに加え、私学ゆえにお金持ちが多いと思われ、つまりは周りの人全てが御坊ちゃまやお嬢様のように見えて、なんだか肩身が狭いと感じながらの消極的な毎日を送っていた。  結局、この1年間、私は部活にもサークルにも所属しなかった。更に授業についていける自信もなくてアルバイトもしなかった。大学へ行き、授業が終わったら自炊の食材を買ってマンションに帰る日々で、入学からの1年間は馴染めないままの虚しい孤独な時間だけが過ぎていった。今振り返ってみれば、この1年間の楽しみだったことと言えばマンションの部屋の東の窓からわずかに見える朝焼けをみることだけだったと言っても良いくらいの寂しい実状だ。言うまでもなく窓は東側にしかなく、西側の夕日を部屋から見ることは出来なかったのだが。しかし窓から見える朝焼けは本当に美しくて、優しい日もあれば鮮やかな日や穏やかでない日もあって、毎日違う表情を見せてくれていた。日々大学とマンションの行き来を繰り返していた私にとっては、唯一変化を感じられて時の流れを知ることが出来るものであったといえる。繰り返される毎日であっても、前に進んでいるということを自分に思い知らせてくれるものだった。そして入学した時のみんなが持っていたように、朝焼けは私にはない希望に満ちた輝きを放っていた。そしてそんな時間を過ごしながら、私はいつもこう思っているのだ。 『この大都会の中で、この朝の僅かな時間の美しさにどれだけの人が気づいているのだろうか』と。 『私はこの美しさに気づいている一人なんだから、いつかきっと負けないくらい輝くのだ』と。
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