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そして、当たり前のように『花ぐるま』で打ち上げとなり、もちろんそこではイケさんのアップテンポが話題となっていた。言うまでもなく、ここで酒のつまみになったイケさんは焦りまくって反論を重ねていた。
アキとイケさんはどことなく未だよそよそしい感じがする。普通に接しようとするふたりの間の空気感に俺は嫉妬している。そしてこの時、
『俺ってちーせーな』
と戒めるのだが、俺の嫉妬心は止まらない。
一方、「俺の友達とは仲良くしてくれ」とよくアキに言うのだが、そう言ってるわりには嫉妬している事が多々あって、空気感を感じると余計にモヤモヤしてきて少しだけアキに意地悪く接してしまったりもする。
初ステージの学祭が終わってからは、とにかく可能な限りライブのステージに立つことをみんなで決めて実行した。今日もそうで、ついに10本目のライブだ。私の場合、もう慣れてはきたつもりだけれど、楽しむよりはまだまだ緊張の方が勝っているステージであることは確かだ。そして、ナオはライブを心から楽しみ、ライブを重ねるごとに彼の人気はドンドン上がっていき、この頃は出待ちをする子が現れている状況だ。
「アキ、帰ろう。」
と、そんなことなど何も気にしないナオが少し細い甘い声で私に言う。
「一緒に出ない方がいいんじゃないかな?出待ちの子たち、いっぱいいたみたいだから先に帰ってて。待ってるよ、きっと。」
「関係ないっしょ。俺そんなの全然気にしないし。一緒に帰るよ、アキ。」
そう言うと、ナオは私の手をぎゅっと握って、引っ張って出口へ向かう。
「お先ー。」
「お疲れー。」
とバンドのメンバーと声をかけ合って、ふたりで外へ出た。少し弱い雨が降っていた。初冬の時期に似合う冷たい雨だった。私の傘で二人は急ぎ足でライブハウスを後にする。ナオがさす傘の中、濡れないようにと私の肩を引き寄せて歩く。相変わらずのナオのペースだ。
「ナオミチー。」
出待ちの子たちの黄色い声とざわつく声が混じって聞こえてきた。多分今私は彼女たちから見れば、最低最悪な女にしか映っていないはずだ。そんな中、予想以上のことが起こった。ファンの気持ちを逆撫でしたことを証明するかのように次の瞬間、突然現れた影に私は腕を掴まれた。
「何なの?この女。」
「・・・。」
突然制されナオから引き離された私は怖くて声も出せなかった。そして気づいたナオが声を荒げて聞く。
「何やってんの?ていうか、アンタ誰?」
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