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ナオはとても自由な人だと思う。そして独自の考えを持っていて、それを信じて貫く人だ。でも私はそういう彼が嫌ではない。むしろ自分に欠けている部分だから尊重してしまう。さらには自由に泳がしてあげたいという気持ちにすらなってしまうのだ。
「うん。ありがと。」
私はそうナオに言った。目の前にはナオの満面の笑みがあった。
「アキはまた泣いちゃいそうだな。」
「え、泣かないよ。」
「ほら、泣いてる。」
こんな時にはいつも私を笑顔に変えてくれるナオだった。
「ちょっとだけ、自分の話していい?」
「うん。」
冷たくて弱い雨は止んでいた。
「俺ね、高校の時に告られて付き合った彼女がいたのよ。初めてできた彼女で、恥ずかしくてさ、仲の良い友達にも彼女できたって言えなくて。1ヶ月くらいしてデートしてたってクラスで噂になって。その時、俺否定したんだよね。そしたら次の日、彼女にあっさりフラれたんだよ。それ以来、隠さないって決めたの。」
「・・・。」
「アキ、引いた?過去を引きずり過ぎって。こだわり過ぎだって。」
「・・・。」
どう答えていいのか分からずに、私は答えられずにいた。
「だから色んな人に俺の彼女だって言いたいし、俺の友達とも仲良くなってほしいんだ。」
「・・・。」
「やっぱ引いてるか。」
と言ってナオは恥ずかしそうに視線を左上に逸らした。その視線の逸らし方がとても魅力的で、私はさらに言葉を失った。
「帰ろう。」
その翌日のことだった。
「ちょっと売店に行ってくるから先に行ってて。」
という私に、
「あ、俺らも行く。」
というシュンくんとハルトくん。
「学務係に寄るから。」
と言えば、
「じゃあ、そっち通って行くか。」
と言って、二人が私と行動を一緒にしたがるので怪しく思って訊いてみる。
「もうなんか今日、ふたり、さっきからストーカーみたいだよ。何か隠してるよね?」
「いや・・・別に。」
「いや、別に。」
二人が声を揃えて言うところが余計に怪しくて、それでいて可笑しくなってしまう。
「ほら、怪しいじゃん。何なん?」
「バレバレか・・・俺たち。」
と言うハルトくんに対して、
「俺は最初からバレると思ってたよ。普通バレるでしょ。」
シュンくんはハルトくんに向かってクールにツッコミを入れた。そんなツッコミなど気にもせずハルトくんのペースは続く。
「アキちゃん・・・ごめんね・・・俺たち・・・ナオミチに・・・頼まれて・・・キャンパスが違うから・・・守ってやれないって・・・その間は・・・頼むって。」
そして冷静で鋭いシュンくんが続けた。
「アイツってあんな性格だから分かりづらいけど、すごく昨日のこと気にしてて反省してたよ、守れなかったって。」
ナオの愛も嬉しくて、ふたりの優しさも嬉しかった。そう感じるや否や私の胸はいっぱいになって、気持ちがどんどん込み上げてきて息苦しいとさえ感じている。
「そうだったんだね。ごめんね。二人にも迷惑かけちゃって。でも私大丈夫だから。」
「ナオミチから・・・聞いたんでしょ・・・元カノ事件。」
「うん。何も言ってあげられなかったけど。」
「ナオミチってさあ・・・あんなだけど・・・自分のこと話すのは・・・下手だよね。」
「・・・。」
「引かれたかもって・・・言ってたけど・・・大丈夫?」
「うん。」
そう答えた。そしてぼんやりとそう感じたならばそれでいいのだということを思い出していた。
「ちょっと待ってよ。元カノ事件って何なんだよ。俺にも教えろ。なんかずるいぞ。」
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