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大学院生となってからの俺はアキとの時間が減ってしまったことは確かだった。夜中に帰宅して昼前に研究室に向かうという生活で、帰ってからも朝方までデータの解析や論文を読んだりと研究に時間を費やす毎日だ。しかも俺は一つのことに集中してしまう性格で、今は研究に集中没頭しまくっている。でも彼女はああいう性格だから、何も言わずに俺の生活に時間をできる限り合わせてくれていて、言わば今はアキに甘えている状態だ。アキの就活の時にも一度は離れることを覚悟した。しかしその時も心配など全くしなかった。たとえ離れても必ず二人が引き合うことに自信があったからだ。この先もずっと大丈夫だと俺は知っている。何故なら俺たちは繋がっているんだから。運命で必然的で当然な出会いをした俺たちが初めから繋がっていたように、アキが好きな朝焼けと俺が好きな夕焼けの空が繋がっているのと同じように、これからも必ず繋がっていくことを俺は疑っていない。
あれからあの光景が何だったのかをずっと考えていたのだが、俺は覚った。甦った光景の時代は恐らく大正時代だろう。そう思ったのはその二人の学生服からだった。着ている学生服の上に、男は黒いマントのようなものを羽織っていたからだ。女学生の制服も今とは異なっていてジャンパースカートが古めかしいデザインだ。夕日の中、川辺で男は女の顔を覗き込み窺うように近づいて話しかける。定かではないがおそらく『俺と一緒になって下さい』と言っている。そして女は恥ずかしそうに頷き、2人は誓い合い、その後接吻をする光景だった。恥ずかしそうな仕草も上目遣いで見上げる仕草は間違いなくアキだ。あの日に甦ったのは彼女の唇にどこか懐かしいという感覚があったからだった。そして出会ってすぐに、この人にはありのままの自分で接していいのだと感じた。一緒に生活をしても未だ違和感などは感じない。あれはおそらく俺とアキだった。その二人がその後どうなったかまでは分からないが、俺たちが出会ったのは運命以外の何者でもない。こうして出会ったのは前世からの二人の約束だったに違いないと俺は思ってる。
アキはこのことに何かしら感じ、気付いているのだろうか?いつかは話すことになるだろうが、今しばらくは黙って秘密にしておくことにする。
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