A. 始まりの予感

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 そんなこともあって、入学から一年が経った今、きっと私は決められた括りではない人との繋がりを心から求めていた。自分の居場所だ。だからこの誘いを消極的な私は断るつもりでいたのだけれど、本当は思ってもみなかった夢のような嬉しい誘いであって、大学生活で居場所を得る最後のチャンスのようにも思えたきた。そしてハルトくんの独特な柔らかい口調に、まだなじめはしないけれど温かい気持ちが伝わってきて勇気をもらったのも事実だった。 「決まってないボーカルにもよるけどね・・・K-POPよりなのか・・・J- POPよりなのか・・・でもボーカルは・・・男子にする予定・・・女子一人でも大丈夫?」 「そういうのは全然気にしないよ。」 そんな私の返答に二人が顔を見合わせたので、私は誤解されたのだと焦って付け加えた。 「あ、変な意味じゃなくて男子の多い高校だったの。」 その言葉に2人は納得したらしく、顔を見合わせて声を揃えて、 「なるほどね。」 「なるほど・・・ね。」 と言い、間を待たずにハルトくんは言葉を返してきた。もちろんハルトくんのテンポでだが、このテンポ感が周囲を柔らかい空気で包んでいく。 「そういうのも・・・気にしないならやろうよ・・・一緒に。」 そしてシュンくんも続いた。 「ならもう決定でいいよね。」 少しせっかちなシュンくんの言葉にも後押しされた。 「そうだね。やってみよっかな。」 私はそう答えていた。  いつもの『少し考えてから』という言葉を私は飲み込んでいた。答えの先送りにをいつものように選択しなかったのだ。 『これが最後のチャンス!!』 と私は心の中でその言葉を繰り返していた。  ゴールデンウィークを前にしていたから強くそう思ったのかもしれない。私の寂しさを回避するための行動だったのかもしれない。1年間の孤独な毎日がこういう行動をさせたのかもしれない。帰省中の孤独や期待外れな自分にショックを受けていたのかもしれない。そして、ハルトくんの独特な口調とせっかちなシュンくんの言葉も自信を持てない私の背中を押したのかもしれない。ただはっきりと分かっていたのは、とにかく今自分が自分の足で前へ進まなければ何も変わらないということだった。  OKをした私の言葉を聞いて、向いで隣同士に座っていたシュンくんとハルトくんは互いの右手を高い位置で二人で叩き合っていた。 「よっしゃー!」 「よっ・・・しゃー!」 その光景に自然と私は笑顔になっていた。
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