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傷ついていく心
「え?梶野ってそんな風に・・・」
「どうしたんですか?先輩、顔色悪いですよ~」
「そぉ?・・・なんでもない」
そう言い残して私はトイレを出て行った。
鏡越しで梶野美樹と目が合った瞬間・・・また声が聴こえた。
「そうよね・・・ホント・・・ダサいワンピース・・・」
私は窓に映る自分の姿を見てそう呟いた。
そんな時、岡田亜希子からの携帯が鳴る。
「久美子?何やってるの、もう行っちゃうよ~」
「・・・ゴメン今行くから」
「じゃあ、新丸ビル6階の中華料理屋さん、名前なんだっけな~久美子もう時間ないからそこに来て」
「うん・・・わかった」
そう言って電話は切れた。
「あぁ~帰りたい・・・」
そう呟いてバックから伊達メガネを取り出した。
新丸ビルは、開業したばかりで連日丸の内のOLが新しいお店でランチや
デートで利用していた。
「中華ってどこよ?」
エスカレーターで6Fに上がると『四川豆花飯荘』と書かれた看板が見えてくる。
「ここ?しせん・・・読めない・・・」
近づくとお店の前で岡田亜希子が手を振るのが見えた。
「久美子~こっちこっち」
「ゴメン・・・遅れちゃって」
「いいの・・・先方も仕事押しちゃって30分遅刻だって~」
「そぉ・・・」
「こっちは、これで全員揃ったから・・・お店入って」
「うん・・・」
黒を基調にした落ち着いた店内、中華料理には珍しいワインクーラーがあったり、中華っぽい茶器が飾られている廊下を通って奥の個室に通される。
「先輩~遅いですよ~」
梶野美樹が笑いながらそう言った。
(彼女も・・・)
「ゴメンね・・・遅くなっちゃって」
「あれ?先輩メガネしてましたっけ?」
「ぅうん・・・」
「お化粧に時間かかってたんですか?」
梶野美樹はそう言って悪戯っぽく笑った。
私は無言のまま入り口の一番端の席に座った。
「今夜はコース料理を頼んでいるから、飲み物は好きなものを注文して」
「は~い」
「喉渇いちゃったから飲み物先に頼んじゃおっか~」
岡田亜希子がそう言って飲み物のメニューを回した。
「・・・私・・・お茶で」
「先輩・・・お茶ですか?合コンで?」
そう言って梶野美樹と隣に座って携帯を見ていた子が笑った。
「私・・・お酒弱いから・・・ゴメンね」
そう言ってメニューを渡した。
(だからこの人外してって言ったのに・・・ダサい)
梶野美樹と目が合った瞬間・・・またそう聴こえた。
「・・・だから来るのイヤだって」
そう小さく呟いた。
程なくしてビールとワインが運ばれ、私の前にはウーロン茶が置かれた。
「じゃあお先に~かんぱ~い」
岡田亜希子がそう言ってビールが入ったグラスを持ち上げた。
「今夜の会費・・・5千円ね、今のうちに回収しま~す」
(5千円・・・)
「ホントは今夜はご馳走しますって言ってくれたんだけど・・・そうもいかないでしょ~」
私は財布から千円札を5枚出して岡田亜希子に手渡した。
「ゴメンね、久美子・・・誘っておいて」
「うんん・・・いいのよ」
正直5千円は痛かった・・・けど私には新作の化粧品や今流行の洋服も必要なくて・・・そう思って納得する自分がもっと嫌だった。
「お待たせ~ゴメンね遅くなっちゃって」
右側からスーツ姿の5人の男性がそう言って入ってきた。
「ゴメン~こっちも先に飲んでました~」
そう言って岡田亜希子が立ち上がった。
そして、男性5人はそれぞれ私たち5人の前に座った。
「じゃあ、俺たちも飲み物頼んじゃおう」
そう言って岡田亜希子の前に座った、短髪で長身の男性がメニューを開いた。
結局5人とも生ビールを注文してすぐにビールが運ばれてきた。
「じゃあ~あらためて・・・今夜が楽しい会になるように・・・かんぱ~い」
その短髪で長身の男性がグラスを高く持ち上げた。
「こいつのプロジェクトミーティングが長引いちゃって・・・」
「今が一番大事なとこなんだから・・・仕方ないだろ~」
そう言って、梶野美樹の前に座った色黒のがっしりした体型の男性がビールを飲み干した。
「すみませ~んビールおかわりください」
私はそれを横目で見ながら、ウーロン茶を一口飲んだ。
私の前には、長髪で銀縁のメガネをかけた男性がこちらをジッと見つめていた。
「じゃあ~自己紹介しましょうよ」
岡田亜希子は2杯目のビールを一口飲んで皆の顔を見渡しながらそう言った。
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