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不貞腐れていた少女に,
父親が困った顔をしている。
「美桜には退屈だったな。悪かったな,ファミレスに連れて行かなくて。
でも,ここの食事も旨いんだぞ!小学校に上がる前に,美桜や楓子を連れて行こうって言い出したのは,母さんなんだ!」
母親は,自分の子供には私立へという夢を持っていて,少女を私立小学校専門の塾に通わせた。
父親は,自分の妻の夢を知りつつ,
私立の学校へ行かせるのを良しとは思わなかった。
「いらっしゃい。ついにお子さんをうちの店にデビューさせたんですね」
話をしている脇からひょこっと現れた青年は,にこにこしながらお冷をテーブルに乗せている。
「こんにちは,美桜ちゃん,楓子ちゃん。
ボクは日比野 渉と言います。宜しくね!
明日から,ボクも美桜ちゃんと同じ小学校の先生として,働く事になってね。それも,美桜ちゃんの担任の先生が決定しているんだよ」
「日比野しぇんしぇい?」
「そうです!日比野せんせいです。一緒にお勉強していきましょうね」
にこやかに笑う渉につられて,自然と笑顔が生まれる少女は,これから長い間,日比野 渉という青年から人生に必要な事を教わっていくのだ。
「・・・さん?」
「美桜さん?どうしましたか?心ここにあらずですよ!」
先生が作ったカフェオレを手渡しして貰い,少女は恥ずかしそうにしていた。
「昔の事を思い出していたんです。小学校に上がる前日の,お店に初めて家族と来た時の・・・」
遠い昔の想い出に浸る少女に,
『そうでしたね・・・』といって,肩に手を乗せた。
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