救いの女神はお嬢さま

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バイト時間10分前に到着した美桜は, 大急ぎで身支度をし,仕事をし始めた。 「珍しいわね,美桜ちゃんが遅くに来るだなんて。買い物?」 近くの棚で商品の補充をする『お嬢さま』がそこにいた(・・)。 「葉月(はづき)ちゃん!来る途中で珈琲の焙煎所があって,試飲させて貰った珈琲が美味かったの。お父さんに飲んで貰いたいし・・」 珈琲好きな父親が頭に浮かび,自分が美味しいと思ったモノを選んだ。気に入ってくれると良いのだけど。 「素敵な考えね。きっと美桜ちゃんのお父様,気に入って下さるわ。うちの父は色々と(こだわ)る人ですもの,大変よ~」 そう言うと,商品の補充をしにカートを引いて,ここを後にする。 美桜は眼鏡のフレームを少しずらし,視線の先にいる葉月を『視 る』。 葉月から溢れる色は嘘をついてはいない。(むし)ろ,優しくて暖かな向日葵色の,キラキラした花が咲いている。 一緒にバイトをする葉月は, 『清野(きよの) 葉月(はづき)』と言い,れっきとした『お嬢さま』だ。 K-コーポレーションという総合商社の社長令嬢で,通っていた私立の初等科で初めて出来た友だちであり,気心知れた仲だ。 社長を務める葉月の父親も,美桜を実の娘同様に可愛がってくれる。 母親の『若 葉(わかば)』さんも,初等科在学中から,美桜の家庭の諸事情を案じ,心配していた1人で, 学校を離れれば,自然と音信普通になるが,若葉さんは美桜を連れ出しては,買い物や食事を楽しむ,親子の様に振る舞ってくれた。 望んでも,手にするのを諦めた母親を,若葉さんに重ねていた。
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