雨宿りはカフェの中で

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雨宿りはカフェの中で

「うわ~やだ!今日は,天気予報で雨なんて降るって言ってないし・・」 少女は,学校帰りに小走りしながら, 携帯で天気予報を確認する。 小雨の降る街は, 周りの世界を灰色一色に染め上げ,街頭に咲く樹々や花は,久し振りの雨を待ちわびていて,とても喜んでいる。 水分を含んだ空気がひんやりして, 肌に触れると気持ちがいい。 「今日も行こうかな,ワタシの憩いの場所(オアシス)へ」 無機質の建物群(コンクリートジャングル)を突っ切り, 勢い良く潜り抜けた先に拡がるのは, 古き良き街並みが残る地域。 懐かしさを感じてしまいそうだが, 少女は,一目散に目的地のある場所へ, ひたすら走る走る。 その場所は,商家だった古民家をリノベーションし,珈琲店 兼 ショップとして,細々と営んでいる所だった。 店主は,元教師で本好き。 曽祖父から譲り受けた珈琲店を,父の代でブックカフェとして経営する。 常備していた折り畳みの傘を畳み, 滴る雨水を切ってから,重い木製の扉をそっと開ける。 カランコロン・・・ 静寂な空間に入り込むと,優しい声が少女を迎えてくれた。珈琲の芳ばしい香りをまとわせて。 「美桜(みお)さん,いらっしゃい!」 「先生,おはようございます。いつものを,お願いします」 先生と呼ばれる店主に,少女は決まったメニューを頼み,決まった席に座って,カバンから本を取り出して,ページを(めく)る。
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