声の岸辺

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声の岸辺

岸辺には水と石と 声しかない 波はあまたの水泡となり、 水泡は声となり、 貝たちは箱舟のように 耐える いずこの橋のした、街のなかの 溺れたものたちの影は あなたの岸辺に手をのばす 舵を失った小舟が あなたをのせて揺れている 沈黙を鑿のように握り あなたは反響する 波の、貝や石のうちの、 限りないものを探している とおくの国で鐘をついた手で 銀の器に湛えられた水をすくう あなた 鐘の音はなる 水面に波紋があそぶと、 それはいずこの国の音か カワセミは潜ると、 翼をなくして水になる 川魚は銀鱗を千々に反射し 秒刻の波紋をいろどる 額縁のなかの声たちの景色が 流れると あなたの目もうつる 岸辺にあるものから あったものへ あなたを象る影から 象ったものへ 声は あらゆる岸辺に湛えられ、 水と石は刻まれて在る。
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