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アドベント ー 南山城国
彼は筵の上に正座して、時を待っていた。
右には太刀、左には線香の入った香炉。
彼は目を閉じ、自らの周りをうねる煙を聞いていた。
月の光が瞼を透過し、網膜を焼く。
天球が先刻から少し角度を変えたことで、右手の鞘にも満月が反射していることが見ずともわかる。
彼の視界は閉じながらにして真白だったが、漂う煙の芳しく清廉な香りと調和しており、至極心地良かった。
束ねられて尾を引く、長く流麗な髪が月風に揺れる。
風向きが変わり、彼は時が近いことを悟った。
彼の前には、白い椿様の小さな花をそこかしこに咲かせた、丈の低い樹が整然と列に並んでいた。
それら花たちも月の光を吸収するかのように、その可憐な顔を精一杯開いている。
木々の畝間、どこかの狭間から、どさりと音がした。
「参られたか、まれびと殿」
彼はスンと夜の冷気を吸うと、瞼を開き太刀をつかんで、ゆるりと立ち上がった。
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