本当は手を繋ぎたい⑤ 真琴編

1/1
101人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

本当は手を繋ぎたい⑤ 真琴編

え……?  キスをしようとしたら真琴だったが、隼人に押し戻され、胸がずきんと痛む。 先輩…俺とキス…したくないんだ…。 俺はもっと先輩に近づきたいし、触れたい。 普通の恋人がしているように、手だって繋ぎたい……。 でも普通の恋人って何? 俺たちは普通の恋人がじゃないのか? 先輩は()が恋人だってこと、恥ずかしいって思ってるのかもしれない……。 だから触れられたくないのかも……。  そう思えば思うほど、真琴の胸のずきずきは大きくなっていく。  視線を落としたまま、隼人に手渡されたシートと割り箸を受け取る。そして隼人の方を見ると、 「美味しそう」 弁当の蓋を宝箱を開けるた時のように、溢れる喜びを全身で表していた。 「真琴、これ本当にお前が作ったのか?」  キラキラした瞳で、隼人は真琴を見つめる。  その隼人の顔を見ていると、さっきまでのずきんとした痛みは胸から消えていく。 今はそんな心配するより、目の前の先輩との時間を楽しもう。 「はい」  隼人の問いかけに笑顔で答える。 「前からなんでも出来て、凄いなって思ってたけど、こんな凄い弁当もつくれるのか」  弁当と真琴を隼人は何度も見た。 「凄いだなんて…」 「これが凄くなくなかったら、何が凄いになるんだ!?」 !!  興奮した隼人が真琴の方にぐいっと近づくと、あと少しでも鼻と鼻がくっつきそうになり、ドキッとした真琴の顔が赤くなる。 「真琴、本当にありがとう。嬉しいよ」  優しく微笑みながら、隼人は真琴を抱きしめた。  ふわっと隼人の香りが鼻をくすぐり、柔らかな隼人の体が真琴を包み込む。真琴が隼人の細い腰に手を回し体を引き寄せると、隼人の体はぴくりとするが、そのまま真琴の耳元に口を近づける。 「真琴、ありがとう。……その…あの……、だ…だ…だい……、だい………」  隼人は何か言いたげだが、なぜか言おうとするたび(ども)ってしまう。 だい? だいって何だ? 「?だい?……ですか?」 「うん。その、あの…その……、だい…す……、す……」 今度は『す』? 『だい』の次は『す』… す?す?す………?  真琴はね色々と考えるが、何も思い浮かばない。 「だから、だいす…す……、す…す……」  何度も隼人は言おうとするが、もう最後の方は消え入るような声になり、言おうとすればするほど、隼人はより真琴に抱きつく。 「言いにくかったら、言わなくても大丈夫ですよ」  ぎゅーっと抱きついてくる隼人の背中を優しく真琴が撫でると、少しずつ隼人の腕の力が抜けていく。 「やだ…。言う……もん」 『もん』!? だって!?!? この人は俺を悶え死にさせるつもりか!? 「じゃあ、なに?」  今度は隼人の頭を真琴が撫でる。 「一回しか…言わないからな…」 「うん。わかった」 「……」  隼人は大きく深呼吸するが黙りこくってしまう。 「先輩?」 「……き」 「き?」 「……」 「なに?」  真琴が隼人の耳元で囁くと、隼人はビクッと体を揺らし、真琴の方に顔を埋めてから、 「『大好き』って…いいたかったんだ」 消え入るような声で囁き、ぎゅーっと真琴にしがみついた。 !!!!!!!! なんだって!?!? なんだって!?!? この人は本当に!! 「聞こえなかったので、もう一回言ってください」  わざと真琴は聞こえないフリでお願いしてみた。 「しない!一回だけっ言った!」  案の定というべきかキッパリ断られ、抱きついた腕まで離される。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!