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本当は手を繋ぎたい⑤ 真琴編
え……?
キスをしようとしたら真琴だったが、隼人に押し戻され、胸がずきんと痛む。
先輩…俺とキス…したくないんだ…。
俺はもっと先輩に近づきたいし、触れたい。
普通の恋人がしているように、手だって繋ぎたい……。
でも普通の恋人って何?
俺たちは普通の恋人がじゃないのか?
先輩は男が恋人だってこと、恥ずかしいって思ってるのかもしれない……。
だから触れられたくないのかも……。
そう思えば思うほど、真琴の胸のずきずきは大きくなっていく。
視線を落としたまま、隼人に手渡されたシートと割り箸を受け取る。そして隼人の方を見ると、
「美味しそう」
弁当の蓋を宝箱を開けるた時のように、溢れる喜びを全身で表していた。
「真琴、これ本当にお前が作ったのか?」
キラキラした瞳で、隼人は真琴を見つめる。
その隼人の顔を見ていると、さっきまでのずきんとした痛みは胸から消えていく。
今はそんな心配するより、目の前の先輩との時間を楽しもう。
「はい」
隼人の問いかけに笑顔で答える。
「前からなんでも出来て、凄いなって思ってたけど、こんな凄い弁当もつくれるのか」
弁当と真琴を隼人は何度も見た。
「凄いだなんて…」
「これが凄くなくなかったら、何が凄いになるんだ!?」
!!
興奮した隼人が真琴の方にぐいっと近づくと、あと少しでも鼻と鼻がくっつきそうになり、ドキッとした真琴の顔が赤くなる。
「真琴、本当にありがとう。嬉しいよ」
優しく微笑みながら、隼人は真琴を抱きしめた。
ふわっと隼人の香りが鼻をくすぐり、柔らかな隼人の体が真琴を包み込む。真琴が隼人の細い腰に手を回し体を引き寄せると、隼人の体はぴくりとするが、そのまま真琴の耳元に口を近づける。
「真琴、ありがとう。……その…あの……、だ…だ…だい……、だい………」
隼人は何か言いたげだが、なぜか言おうとするたび吃ってしまう。
だい?
だいって何だ?
「?だい?……ですか?」
「うん。その、あの…その……、だい…す……、す……」
今度は『す』?
『だい』の次は『す』…
す?す?す………?
真琴はね色々と考えるが、何も思い浮かばない。
「だから、だいす…す……、す…す……」
何度も隼人は言おうとするが、もう最後の方は消え入るような声になり、言おうとすればするほど、隼人はより真琴に抱きつく。
「言いにくかったら、言わなくても大丈夫ですよ」
ぎゅーっと抱きついてくる隼人の背中を優しく真琴が撫でると、少しずつ隼人の腕の力が抜けていく。
「やだ…。言う……もん」
『もん』!?
もんだって!?!?
この人は俺を悶え死にさせるつもりか!?
「じゃあ、なに?」
今度は隼人の頭を真琴が撫でる。
「一回しか…言わないからな…」
「うん。わかった」
「……」
隼人は大きく深呼吸するが黙りこくってしまう。
「先輩?」
「……き」
「き?」
「……」
「なに?隼人」
真琴が隼人の耳元で囁くと、隼人はビクッと体を揺らし、真琴の方に顔を埋めてから、
「『大好き』って…いいたかったんだ」
消え入るような声で囁き、ぎゅーっと真琴にしがみついた。
!!!!!!!!
なんだって!?!?
なんだって!?!?
この人は本当に!!
「聞こえなかったので、もう一回言ってください」
わざと真琴は聞こえないフリでお願いしてみた。
「しない!一回だけっ言った!」
案の定というべきかキッパリ断られ、抱きついた腕まで離される。
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