本当は繋ぎたい③ 真琴編

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本当は繋ぎたい③ 真琴編

 まだ春先ということもあって、海辺付近に人の気配はない。  弁当がよほど嬉しかったのか、車から降りると隼人はすぐに弁当箱の入った袋を大切そうに持つ。 「真琴、早く行こう!」  真琴の手に隼人の手が伸びてきたが触れる寸前、パッと手を引っ込めた。 「ご、ごめん……。あ!ほらあそこなんてどうだ?海もよく見えていいと思うぞ」  そういうと少し俯き加減に隼人が真琴の前を歩き始める。 先輩どうして手、引っ込めたんだろう? 俺、手繋ぎたかったのに… 誰もいないとはいえ、やっぱり外で手を繋ぐのは嫌なのかな?  真琴の心がチクリとした。  隼人が指差した場所に着くと、真琴がレジャーシートを広げる。  その間も待ち切れないかのようで、隼人本人は気づいていないが、体が小さく左右に揺れている。シートが引き終わると、隼人はすぐにシートに靴を脱ぎシートに乗ると、後ろの角に脱いだ靴を右角には右足の靴を、左側には左の靴を一足ずつ置く。 ん? どうして角に、靴を一足ずつ置くんだろう?  後で履きにくいだろうと、真琴が靴を揃えて置くと、 「取ったらダメだろ」 隼人がそを慌てて止めた。 ? とったらダメってどういう事だろう? 「バラバラに置いていたら、次履く時手間ですよ」  真琴が隼人の靴を持ち上げると、風でシートの門からめくれ上がる。 「あー、ほら、風でシートがめくれるから重しにしてたのに」  隼人は真琴の手から靴を取り返すと、また先ほどのように角に一足ずつ靴を置く。 「な、こうしたら、風でもシートめくれないだろ?小学校の遠足でシートの使い方習ったの、忘れたのか?それにシートがめくれて砂も一緒に飛んできて、大切な弁当に砂が入ったら大変だ」  まだ大事そうに抱えている弁当を、嬉しそうに隼人は見つめた。 なるほど、それで…。 って、小学でシートの使い方なんて習うのか? しかもそれを今でも覚えていて、忠実に守っているなんて先輩らしい。 あー、俺の大切な人はなんて可愛いんだろう。 俺の作った弁当を大切そうに抱えてくれ、自分の靴でシートに重りまで作ってくれる。 幸せすぎる。  気持ちが昂り、真琴は後ろから隼人を抱きしめた。  一瞬隼人は体をビクッとさせたが、少し俯きながらも特に嫌がることもなく抱きしめられている。   先輩、今どんな顔してるんだろう?  真琴が隼人の顎をクイッと後ろに向かせると、頬を赤らめ恥ずかしそうに、真琴視線を落とす隼人がいた。 ヤバい。 色っぽすぎて、今すぐキスしたい。  徐々に真琴は隼人を引き寄せ、唇を重ねようとした時、隼人は俯きながら真琴を押しのける。 え? 先輩、俺とのキスは…嫌?  また、真琴の胸はチクッとする。 「は、早く弁当にしよう」  隼人は大切に持ったままの弁当を、2人の間に置き、一緒に入っていた手拭きシートを開けて、割り箸と共に真琴に渡して、自分もシートで手を拭き『いただきます』と、手を合わせ弁当を開けた。
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