本当は手を繋ぎたい④ 隼人編

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本当は手を繋ぎたい④ 隼人編

 春風とともに磯の香りがする海辺には人影はなく、隼人はほっとする。なぜって……、 真琴と2人っきりだ。 2人っきりのランチが大切すぎるこの弁当。 早く食べたいし、絶対落とせない!  弁当がよほど嬉しかったのか、車から降りると隼人はすぐに弁当箱の入った袋を大切そうに持つ。 「真琴、早く行こう!」  真琴の手に隼人の手が伸びてきたが触れる寸前、パッと手を引っ込めた。 危なかった。 もう少しで手を繋ぐところだった。 本当は繋ぎたいけど、繋いだら弁当片手で持つことになるだろ? もしそれで落としたら大変だ。 「ご、ごめん……。あ!ほらあそこなんてどうだ?海もよく見えていいと思うぞ」  そういうと少し俯き加減に隼人が真琴の前を歩き始める。  隼人が指差した場所に着くと、真琴がレジャーシートを広げる。  嬉しすぎた隼人は、シートがひかれるのを今か今かと待っている。 外での弁当なんて、何年ぶりだろう? 小学生ぶりか? ということは……18年ぶりか。 大人になってから、遠足みたいで楽しい。  シートが引き終わると、隼人はすぐにシートに靴を脱ぎシートに乗ると、後ろの角に脱いだ靴を右角には右足の靴を、左側には左の靴を一足ずつ置く。 これでシートも風で飛ばないだろう。  一安心と隼人が弁当をシートに置くと真琴が靴を揃えて置く。 何してる!? 「取ったらダメだろ」  隼人がそを慌てて止めると、真琴はキョトンとした顔で隼人を見る。 「バラバラに置いていたら、次履く時手間ですよ」  そういい真琴が隼人の靴を持ち上げると、風でシートの門からめくれ上がった。 だからそれを外したら…。 「あー、ほら、風でシートがめくれるから重しにしてたのに」 本当に世話が焼ける。  隼人は真琴の手から靴を取り返すと、また先ほどのように角に一足ずつ靴を置く。 「な、こうしたら、風でもシートめくれないだろ?小学校の遠足でシートの使い方習ったの、忘れたのか?それにシートがめくれて砂も一緒に飛んできて、大切な弁当に砂が入ったら大変だ」 砂が入ったら食べられなくなるだろう……。 いや、砂が入っても食べるか。 だってせっかく真琴が作ってくれた弁当だ。 残すわけにはいかない!  まだ大事そうに抱えている弁当を、嬉しそうに隼人は見つめると、気持ちが昂った真琴が、後ろから隼人を抱きしめた。 え!?    一瞬隼人は体をビクッとさせたが、少し俯きながらも特に嫌がることもなく抱きしめられている。   背中から真琴の体温を感じる。 俺の心臓、ドキドキしすぎて真琴にバレてしまいそうだ。 でもこのまま抱きしめられていたい…。  隼人が真琴に抱きしめられたまま動かないでいると、真琴が急に隼人の顎をクイッと後ろに向かせ、熱い視線で隼人を見つめる。 は、恥ずかしすぎる。 そんな色気たっぷりで見つめられたら、もっと抱きしめられて……。  徐々に真琴は隼人を引き寄せ、唇を重ねようとする。 あ〜好き。 この表情も熱い視線。  近づいてくる真琴に唇を奪われたくなるが、隼人は俯きながら真琴を押しのける。 このままだと、完全に流されてしまう。 蕩けてしまう…。 俺たちまだ…、軽いキスしかしたことないのに、それ以上は俺のキャパオーバーだ。 「は、早く弁当にしよう」  隼人は大切に持ったままの弁当を、2人の間に置き、一緒に入っていた手拭きシートを開けて、割り箸と共に真琴に渡して、自分もシートで手を拭き『いただきます』と、手を合わせ弁当を開けた。
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