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初恋の人からの手紙
林このみ様
お久しぶりです。先日立ち寄ったデパートで、偶然にもあなたの写真展を観ることができました。
昔からの夢を叶えたんだね。おめでとう!
作品もとても素敵でした。ポストカード、いっぱい買っちゃったよ。
あの時いただいた写真は、今でも部屋に飾っています。「この写真いいね」って、よく褒められるんだよ。
これからもご活躍を期待しています。
お体にお気をつけて、お元気で!
里史昭
所属事務所のオフィスに届いたハガキを手にした私は、びっくりしてしばらく動けなくなった。
私が撮った写真のポストカードを私に送ってくるなんて、一体誰よ? と思ったら、高校時代にずっと片思いしていた同級生だったのだ。
サト君! あのサト君から私に、手紙が!
もういい大人だというのに、一瞬にして少女の頃に戻ったみたいにときめいてしまった。
あいかわらずきれいな字だし、文面もなんてさわやかなんだろう。あの写真をずっと飾ってくれているって。夢みたいだ。
サト君とは、三年間同じクラスだった。陸上部の副部長で、いつも笑顔でスポーツマンを絵に描いたような男の子。クラスの地味で冴えないタイプの子にも親しげに声をかけてくれるような優しいところが好きだった。
言うまでもなく、地味で冴えないタイプとは私のことだ。体育会系の男子は苦手だったけれど、サト君は物腰も柔らかくて、話しやすかった。
小学生の時に親から一眼レフカメラをプレゼントしてもらった私は、とにかく写真を撮ることが大好きだった。
レンズを通せばすべてを真っすぐな心で見つめることができる。自分のことはアピールできなくても、写真には自信が持てた。私が見ている世界はこんなに美しいんだよって。
高校二年の時、ずっと投稿し続けていたカメラ雑誌の公募で大賞を受賞した。学校の朝礼で表彰までされちゃって恥ずかしかったけれど、それまであくまで夢でしかなかった「プロになる」という目標をみんなに認められて嬉しかった。
それに、入賞作品はサト君が被写体だったのだ。夕焼けをバックに、ジャンプしてハードルを跳び越える瞬間。躍動感のある真っ黒なシルエットを、静止画のようにピタリと捉えたワンショットだ。
「サト君のおかげで賞がとれたよ。ありがとう」
大きく引き伸ばした写真を額装して、サト君にプレゼントした。すごくドキドキして、ちょっとしか目が合わせられなかった。今思うと、あれは私のせいいっぱいのラブレターだったのだ。
「もらっていいの? ありがとう、大事にする! 林は本当にすごいな!」
違うよ、サト君。だって、私が得意なのは風景写真で、スナップは苦手だったんだよ。こんなに上手に撮れたのは、私がサト君を好きだったからだよ。
どうしよう、返事! 返事を書かなきゃ!
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