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更に一週間後、人類補完教会の前には中年の男性がまるでホームレスのようないでたちでドカジャンを着て阿呆のように教会の建物を見上げていた。
「どうされました?」
たまりかねて信者らしき男性が声を掛けた。
「あ、い、いえ。ちょっと悩んでまして」
「わたしでよければ話を聴きますよ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、我々は兄弟ですから」
「兄弟?」
「はいそうです」
「じ、じゃあ、ちょっとだけ悩みを打ち明けてもよいですか?」
「ええええ、もちろんです、ここではなんなんでどうぞ中へ」
「ありがとうございます」
男はしきりに恐縮しながら中に入った。
中をキョロキョロと見渡しながらてじかな席にぽつんと座る。
中には教壇のような所でなにやら講釈している白髪の男とそれを聞いている若い男がいた。
「それで、悩みとはなんでしょう?」
「いやぁ、でも怒るかなぁ」
「怒りませんよ、心の壁を取り払いましょう、それが神の御心に合致した事なのです」
「ほんとに?」
「本当です」
「じゃあ、言いますけど、わたしね、復讐しに来たんです」
それを聞いた信者の男は少しだけ眉間に皺を作っただけでまた柔和な顔に戻った。
「おや、驚かないんですね、私、あなた達に家族を殺されたんです、この気持ちをぶつけても良いですか?」
「ええ、とても悲しい出来事でした」
「悲しい出来事?ははは、ははははは、ふざけた事を、言うな!」
「そう興奮なさらないでください、こちらも無用な争いは望んでません」
「無用な?争い?いま無用と言ったのですか?」
「はい、私たちは必ず分かり合えるはずです」
「話にならないな、、、本音を言うのが教えじゃないんですか?」
「本音?」
「お前らの教えだ!本心を語るんだろ!そうすれば救われるんだろ!」
「これが本音です、とても悲しい出来事がありましたが、私たちは分かり合えるはずです」
「警察がどこかにいるんだな」
「なんのことですか?」
「何をしようとしてるのか知らないがやめておけ」
男はそういうとドカジャンをゆっくりと脱いだ。
「え?」
「うわぁ!」
物陰から声がした。
「なんだ、そこに隠れてたのか?拳銃で撃ち抜いてみろ、お前ごと吹き飛ぶぞ」
男は身体中にダイナマイトを巻いていた。
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