1人が本棚に入れています
本棚に追加
もちろん、会食の場として使われているのは、安いファミリーレストランなどではない。総理官邸に近い一流ホテルのレストランの個室である。注文したのは、前菜に、オムライス、食後のコーヒーとデザートがついて、「たった一万円のお得なランチセット」だった。
「なにか言いたいようだが?」
多々野が水を向けると、深沢はフンと鼻を鳴らした。
「単純なことだ。花だよ、花」
「は……?」
花? 花とはなんだ? 聞きかえそうとする。
それより早く深沢は立ち上がると、壁際の小さなテーブルに飾られていた花瓶を持ってきて、テーブルの上にどんと置いた。
名前は知らないが、白い花や、黄色い花がいくつも咲いている。
深沢はまたばかにしたように言った。
「花だよ、ヨシミちゃん」
う、と呑まれかけたものの、すぐに多々野は言いかえした。
「いいか、深沢、昔から何べん言えばわかる。おれはヨシミちゃんじゃ――」
ヨシミちゃんじゃなくてリョウケンだ、と抗議しようとするのを、深沢がさえぎる。
「花というのはな、ヨシミちゃん、オシベとメシベがあってだな。知ってるか?」
最初のコメントを投稿しよう!