巨大な花

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「ばっ、ばかにするな。いくらおれでも――」  さらに抗議しようとするが、深沢は聞いていない様子で、続けた。 「花は開いて、よい香りをふりまき、蜜をえさに、虫を呼ぶ。花のなかにもぐりこんだ虫の体にオシベの花粉がついて、その花粉がメシベにくっつくと、受粉し、実をつける。つまり、花というのは生殖器官なんだな」 「だからなんだと言うんだ?」  東京一極集中とはなんの関係もないじゃないか、という思いに、多々野はいらだった。  深沢は、多々野の思いなどどこふく風と、涼しい顔で話しを続ける。 「東京というのは、巨大な花なんだよ。文化と産業という実をつける、巨大な生殖器だ。虫の役目をはたすのは、人間。江戸時代には、五街道が整備された。明治以降は、それに沿って鉄道もつくられた。あらゆる道、あらゆる線路が東京へ向かう。これは、東京という巨大な花が、地方へのばした触手とも言える。その触手に捕らえられて、人間という虫が、東京へやってくる。東京で、文化と産業の生殖に関わるわけだ。そのかたわら、実は、その人間自身の生殖活動も行うのだがね」  うまいジョークをひねり出した、と言わんばかりに、深沢は下卑た笑いを浮かべた。  やっと話が見えて、多々野はうなった。 「なるほど、花かぁ……じゃあ、東京一極集中を是正するのは?」
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