七月七日

1/1
前へ
/6ページ
次へ

七月七日

 ベランダから星のない夜空を見上げ、ちひろが長いため息をついた。  この時期の日本はたいてい梅雨の真っ只中で、俺が知る限り、織姫と彦星は会えた試しがない。 「もともと一年に一度しか会えないのに、その一日さえも会えない恋愛って続くと思う?」  ちひろがまるで自分のことのように暗い顔をするので、俺は自分でも感心するような屁理屈を思いついた。 「会えてるんじゃない? 雲は地球の表面にあるだけで、天の川はそれよりずっと先にあるんだろ? 地球からは見えないだけで、雲の向こうは晴れてると思う」  ちひろは俺の屁理屈に満足したようで、屁理屈話を膨らませる。 「そっか。見えないほうが都合がいいから、わざと曇らせてるんだね」 「都合がいいって、どういうこと?」  聞き返すと、ちひろは試すように俺の顔を覗き込んだ。  こんなときちひろは、ふだんよりずっと大人びて見えて、俺は内心ひやりとする。 「一年ぶりに会えた恋人同士が、何をするかわからない?」  そうして俺たちは、  曇り色のカーテンにくるまり、  全地球人に隠れてキスをした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加