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七月七日
ベランダから星のない夜空を見上げ、ちひろが長いため息をついた。
この時期の日本はたいてい梅雨の真っ只中で、俺が知る限り、織姫と彦星は会えた試しがない。
「もともと一年に一度しか会えないのに、その一日さえも会えない恋愛って続くと思う?」
ちひろがまるで自分のことのように暗い顔をするので、俺は自分でも感心するような屁理屈を思いついた。
「会えてるんじゃない? 雲は地球の表面にあるだけで、天の川はそれよりずっと先にあるんだろ? 地球からは見えないだけで、雲の向こうは晴れてると思う」
ちひろは俺の屁理屈に満足したようで、屁理屈話を膨らませる。
「そっか。見えないほうが都合がいいから、わざと曇らせてるんだね」
「都合がいいって、どういうこと?」
聞き返すと、ちひろは試すように俺の顔を覗き込んだ。
こんなときちひろは、ふだんよりずっと大人びて見えて、俺は内心ひやりとする。
「一年ぶりに会えた恋人同士が、何をするかわからない?」
そうして俺たちは、
曇り色のカーテンにくるまり、
全地球人に隠れてキスをした。
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