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 むせ返るような夏の午後、冷蔵庫並にクーラーを効かせ、ふたりで作ったキムチ鍋を汗だくになって食べている。 「こういうのってエコじゃないと思わない? 贅沢のしすぎだよ」  もやしの大群をかいくぐり、どろどろに溶けた餅を救出しながら、ひちろが言う。 「猛吹雪の中、ストーブをガンガン効かせて、コタツで雪見だいふくを食べるのと、どっちが贅沢?」 「コタツがあるなら、ストーブは消しなよ」 「倹約家だなあ」  キムチと一体化した餅が、ちひろの口からびよーんと伸びる。 「贅沢に慣れると戻れなくなる」  一瞬、何の話だかわからなかった。 「えっ? どこに戻ろうとしてんの?」  慌てて聞き返すと、ちひろは俺の顔を見て吹き出した。 「心配しなくても、うちらはもう戻れないよ」
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