世の中

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 逃げる手を引き留めるかのように、サクヤが瑠衣の手を優しく掴んで、握った。 「ごめんね、瑠衣。ありがとう。無理……してない?」 「無理、してません。むしろ、頭撫でてほしいなって思いました。サクヤさ……サクヤが私の頭撫でたいなって思うように、どうやら私も撫でられたいみたい」  そう言って、瑠衣は微笑んだ。 「瑠衣」  サクヤは、その手を自身の方へと軽く引き寄せた。二人の距離がグッと縮まる。  反対の手を瑠衣の頭に怖々とした様子で指先からそっと乗せ、その手を瑠衣の肩まである綺麗な黒髪の先まで滑らせ終えると、両手をパッと瑠衣から離した。 「もう、良いの?」  あまりにも短い時間だった為、瑠衣は思わずそう問いかけた。 「え? もっと、触って欲しかった?」  聞き返されて、顔を赤らめてうつむいた瑠衣に、サクヤはもう一度軽く頭を撫で、もう一方の手で瑠衣の顔を正面に向き直させた。  お互いの視線がかち合い、それを反らしたいような反らしたくないような、不思議な感覚に囚われる。 「瑠衣。好きだよ。ずっと、これからも。さっきの笑顔、嬉しかった。やっぱり瑠衣には笑顔が似合うね。離したくないけど……抱き締めちゃいそうだから、離すね」  今度はそう予告して、離れた。  瑠衣は自分の心臓がいつもよりも速く動いていることを自覚すると共に、触れられた時に感じた心地の良さと安心感にほっと胸を撫で下ろしたのだった。  
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