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その日から、サクヤと瑠衣は穏やかな日々を送っていた。瑠衣の記憶が戻ることはなかったが、瑠衣も次第にサクヤに惹かれてゆき、二人の間にあった溝は確実に浅くなっていった。
その間に、二人は色々な話をした。くだらない話もした。
たくさん、笑い合った。
サクヤは、枝豆の話もした。二人で枝豆の布団に寝転がり、空を見上げたこと。そんな風に、二人はいつも笑い合っていたことを教えた。
話を聞いても当時を思い出す事はなかったが、瞳を閉じれば浮かんでくる光景に瑠衣は頬を緩めた。
そうやって、瑠衣は自分とサクヤの事を少しずつ知り、失ってしまった過去の時間を取り戻していったのだ。
────二週間程経った頃だろうか。
その夜、瑠衣は酷い悪夢にうなされ夜中に目を覚ました。サクヤは別の部屋で寝ていたので、その部屋には瑠衣以外には誰もいない。だが、誰かに首を絞められているかのような息苦しさだ。
恐怖から全身に汗をかいてはいたが、頭はヒヤリと冷たいような、不思議な感覚に具合が悪くなる。
どんな夢だったのかもハッキリとは思い出せない。だが……
「お父さんとお母さん……?」
顔もぼんやりとしたものだったが、父と母が夢に出てきたような気がする。
瑠衣はどうしようもない不安に駆られ、ベッドから降りて部屋を出た。出てすぐの場所にあるサクヤの部屋の扉を、ノックする。
「サクヤ、起きてる?」
扉越しに声を掛けるが、返事はない。
もう一度、声を掛ける。
「夜中にごめんなさい。サクヤ、寝ちゃったかな」
だが、やはり返事はない。諦めて引き返そうかとも思ったが、自分に襲い掛かる不安に負け、その扉をそっと開いた。
サクヤの部屋には初めて入ったが、ベッドの他には寂しすぎる程に何もない部屋だった。
これまでは瑠衣が寝ている部屋で、一緒に寝ていたのかもしれない。そう思うと、少しの恥ずかしさと幸せな気持ちで幾分が心が安らぐ。
ゆっくりとベッドに近付くと、サクヤは眠っていた。
サラサラの髪が瞑っている目にかかり、口許がうっすらと開いている。
眠る姿を見るのは初めてだったので、瑠衣はなんだか嬉しくなった。居てくれるだけでこんなにも安心できる人が自分の側にいる事を、改めて幸せに思う。
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