23人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
寝顔を見ていると、穏やかな気持ちになった。自然と手が伸び、指先が髪の毛に触れる。さらりと垂れたその毛先にすら愛しさを感じる。そのまま髪に掌を乗せる……瞬間、サクヤの目がパチリと開いた。
起き上がるのと同時にその手を捕まれた。
サクヤはとても驚いた顔をしている。
「ご……ごめんなさいサクヤ」
「瑠衣? っ大丈夫?!」
サクヤはどこか混乱しているようだ。寝起きで、驚いたに違いない。
「大丈夫だよ。少し怖い夢を見ちゃって。返事がなくて、勝手に入ってごめんなさい」
「そんな事はどうだって良い。瑠衣が大丈夫なら、それで」
「心配し過ぎ」
「そうかな。それで、どんな夢だったの?」
「わからない。思い出せないの。でも、すごく苦しかった。両親が出てきたような気がするんだけど……」
夢の内容を聞き、サクヤは一瞬だが戸惑いを見せた。
「そっか……今はもう、怖くない?」
「大丈夫。サクヤの顔を見たら安心したみたい」
「良かった」
「あの……サクヤ。一緒に寝ちゃダメ……かな」
下を向き、恐る恐る視線を上げサクヤを見た瑠衣は、安堵した。
サクヤは、いつもの優しい笑顔で微笑んでくれいた。
「一緒に寝たら、襲っちゃうかもよ?」
「え」
「冗談だよ。おいで」
その夜、瑠衣はサクヤの腕に抱かれて眠った。
瑠衣にとって、その数時間はとても幸せなものだった。もう、記憶なんて戻らなくても良いのではないかと、そう思ってしまう程に。
最初のコメントを投稿しよう!