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それから数分後。
瑠衣は、先程の混乱が嘘だったかのようにベッドで穏やかに眠っていた。
その瑠衣を愛しげに見つめるサクヤは、瑠衣の手を握り締めていた。
「どうしたらっ……」
1人呟き、項垂れた。
瑠衣はその日、過去の記憶を取り戻したのだ。
その身に背負う、凄惨な過去を。
瑠衣は、一年前に自分の父親をナイフで刺した。理由はある。自己防衛だ。
だが、致命傷には至らなかった。血の繋がらない娘に暴力をふるいそれ以上の行為に及ぼうとした父親に引導を渡したのは、瑠衣の母親だった。
母親は、瑠衣を助けたわけではない。単純に、自分の夫を許せなかったのだ。そして、優しく美しく育った最愛の娘の事すらも、その瞬間憎いと感じてしまった。
そんな自分を一番許せなかった母親は、夫の血で濡れたそのナイフで、自らの命をも絶ってしまった。瑠衣の、目の前で。
「俺のこの力が、瑠衣の記憶を消すものじゃなく過去を消せるものだったら良かったのに……」
その事件から、瑠衣は精神を病んでしまった。親類や友人やサクヤでも手に負えない。放っておけば、瑠衣は病院の檻の中に閉じ込められてしまうのだ。
瑠衣は明るく、そして優しい子だった。両親とも仲が良く、血の繋がらない父親の事も心底慕っていた。
そんな父親が、豹変したのだ。何がきっかけだったのかは今となっては分からない。元々そういうものを持っていたのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
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