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決意
クラシック3冠のうちの最後の1冠を争う16頭の激突、特にコレデイイノカ、キノウノナイトメア、マッスルトウコンの3強の対決を見るために、この日の京都競馬場には5万人近くのお客さんが駆けつけていた。僕はパドックで3番のゼッケンをつけたトライ君が歩く様子を眺める。陽の光を浴びたトライ君の青鹿毛の馬体は燃え上がりそうなほど黒くギラギラと光っており、踏み込みもしっかりしている。
「竹之内君」
大河原先生が僕に声をかけてきた。
「先生。トライ君の雰囲気、凄いですね」
思わず僕はそう零した。
「やるべきことは全てやった。あとは1着になることを祈るだけだよ」
大河原先生はそう仰ると、備え付けられていた電光掲示板を眺めた。人気は三強に偏っており、僕が乗るトライ君は8番人気。単勝オッズは29倍である。三強とトライ君との勝負づけはもう終わったというのがファンの見解のようだ。
「とまーれー!」
職員の合図が響く。そろそろ本馬場へと向かう時間だ。
「人気が無い分気楽だろ?思う存分乗ってこい」
「はい。思い切って乗ってきます」
僕はそう言い切り、トライ君の背中へと跨った。
皐月賞は、速い馬が勝つ。
ダービーは、運の良い馬が勝つ。
そして菊花賞は、強い馬が勝つ。
昔から言われている。
この子は強い。そして、賢い。
僕はあの日札幌競馬場で確かにそう感じた。
今日の僕にできることは、トライ君を信じ抜き、そしてトライ君の力を最大限引き出せるレースを作ることだけだ。
入場曲に合わせて、本馬場には手拍子の音が響く。先頭を悠々と歩く誘導馬に導かれ、一頭、また一頭とグリーンのターフへと優駿が駆けていった。
「8番!がんばれよ!」
「ナイトメア!期待してるぞ!」
「トウコン!今日もゴボウ抜きだ!」
全ての馬に力強い声援が送られているが、やはりコレデイイノカ、キノウノナイトメア、そしてマッスルトウコンの3頭への応援は特に盛大で、ファンの支持がそれだけ大きいと言うことを如実に物語っていた。確かにこの3頭にはかなりの力量がある。ファンの見立てはその意味では正しい。
でも、それでも僕は勝ちに行く。
トライ君は強いんだ。トライ君は賢いんだ。
淀のターフをウォーミングアップのつもりで軽く駆けながら、僕は決意を固めた。
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