忠犬だけど嫌なこと

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元々野良犬で、山などの外の環境で生きてきた某には檻の中が酷く寂れて見え、人間はそんな場所に自分を追いやった極悪非道な種族と思い込んで、人間に対して塞ぎ込み、時には攻撃的になることもあった。 「こいつぁ…ダメだな」 皆が口を揃えて呆れた顔で某を檻の外から見下ろしてくる。この頃齢5歳。成犬期と属される時期で、本気で噛み付けば人間側も大怪我になる恐れがあるということで、餌は皆檻の外からトングで挟んで檻の中にほり投げてきおった。なんだかよく分からない餌。肉のようなもの。狼かなにかと勘違いされているのか。それを人間の目がない時に素早く食べて檻の奥へと逃げる。そしてまた檻の外を静かに睨み返す日々が続いていた。 「こいつも明日までだよな」 人間二人がこっちを見ながら話し合う。 その言葉の意図が某には分かった。檻から出された他の犬が帰ってきたことは無い。 少なくとも某の知る限りでは、同じ犬が同じ場所に帰ってきたことが無いのだ。それが「死」なのかそれとも「逃」なのかは某も知らぬ。
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